リチャード・ギャリオット

概要

リチャード・ギャリオット・ド・ケイユ（Richard Garriott de Cayeux, 1961年 7月4日 - ）は、イギリスに生まれ、アメリカ合衆国で主に活動する著名なゲームクリエイターです。コンピュータRPGの金字塔として知られる「ウルティマ」シリーズの生みの親として世界的に名を馳せました。ゲーム開発に生涯を捧げる一方で、宇宙旅行を実現させるなど、非凡な人生を送っています。

生い立ちと教育

イングランドのケンブリッジで誕生したギャリオット氏は、幼少期を主にアメリカ合衆国テキサス州のオースティン近郊ナッソー・ベイで過ごしました。しかし、両親の仕事の関係で度々イギリスへ帰る機会があり、この経験から彼には強いイギリス訛りが身につきました。この特徴は、後に彼が「ブリティッシュ」（「イギリス風の」）というニックネームで呼ばれるきっかけとなります。

彼の家庭環境は非常に恵まれており、父親のオーウェン・ギャリオット氏はNASAの宇宙飛行士であり、工学博士や大学教授としても知られた人物でした。母親は芸術家でした。こうした背景は、彼のその後のキャリアや趣味に大きな影響を与えています。特に父親が自身のデザインしたペンダントを持って宇宙へ行ったエピソードは、「ウルティマ」シリーズに宇宙や蛇が登場するシナリオとして色濃く反映されていると言われています。

幼い頃から電子工学への優れた適性を示し、両親もその才能を積極的に支援しました。クリアクリーク・ハイスクール在学中はプログラミングに没頭し、1977年には両親の勧めで参加したコンピューター技術合宿で「ブリティッシュ」の綽名が定着しました。このニックネームは彼自身が気に入り、開発したゲーム世界の王である「ロード・ブリティッシュ」の名にまで取り入れています。活動拠点はアメリカですが、基本的にはアメリカ文化に親しみ、発音もアメリカ英語の範疇であるとされています。

高校時代、彼は自ら学校に上級コンピュータクラスの新設を働きかけ、教師不在の中、少数の生徒と共にゲーム開発を目標に学習を進めました。卒業までに、彼は28本ものダンジョン探索プログラムを完成させています。

ゲーム開発キャリアの始まり

学生時代からゲーム開発に熱中していたギャリオット氏は、自作の完成品を友人に提供し、フィードバックを得ていました。高校卒業後、大学進学前の19歳の時、アルバイトをしていたPCショップの店長の勧めにより、自身が開発したRPG「アカラベース」を販売することになりました。このゲームが「カリフォルニア・パシフィック」社の目に留まり、全米で展開されることとなります。「ウルティマ」に通じる斬新なゲームシステムは話題を呼び、1981年までに3万本というヒットを記録しました。これにより得た収入は大学の学費には十分でしたが、後に「ぱーっと使っちゃった」と語っています。大学ではフェンシング部や中世文化のサークルに所属しました。

「ウルティマ」シリーズの誕生と発展

1980年代初頭、ギャリオット氏はケン・アーノルドと共に「アカラベース」のシステムを改良したApple II用ゲーム「ウルティメイタム」を開発しました。しかし、商標の問題から販売時にタイトルが「ウルティマ」に変更されました。ケン・アーノルドによるタイルグラフィック技術によって広大な世界を自由に探索できるようになった「ウルティマ」は大きな成功を収めます。続く「ウルティマ2」もヒットし、これらの成功を背景に、ギャリオット氏は作品の販売を自社で管理することを決意します。1983年、「ウルティマ3」の制作にあたり、父や兄弟を共同経営者に迎え、「Origin Systems」社を設立しました。これ以後、彼は「ウルティマ」シリーズの制作と販売の両方を手掛けることになります。

「ウルティマ」シリーズの中心となるブリタニア大陸を統治する王として登場するのが、前述のニックネームに由来する「ロード・ブリティッシュ」です。このキャラクターはギャリオット氏自身の分身とされ、FM TOWNS版「Ultima VI」や日本語版「Ultima IX」では彼自身が声を担当しています。

EA時代とその後の展開

1992年9月、Origin Systems社はアメリカの大手ゲーム会社であるエレクトロニック・アーツ（EA）社と契約を結び、EAの開発部門として統合されました。ギャリオット氏は人気シリーズとなっていた「ウルティマ」の開発総責任者を続けつつ、オンラインRPGの可能性を追求し、「ウルティマオンライン」を開発・成功させました。しかし、Origin Systemsの経営状況は徐々に悪化し、2000年には開発中の複数プロジェクトがEA本社によって凍結され、経営責任を問われる形でギャリオット氏は解任されることになります。

EA退社後、彼は同じくOrigin Systemsを離れた兄ロバートや「ウルティマオンライン」のメインプログラマーだったスタリー・ロングらと共に「Destination Games」社を設立しました。

2001年5月、Destination Games社はMMO開発で協力関係にあった韓国のゲーム会社NCSoftに買収され、ギャリオット氏はNCSoftアメリカ支社のCEOに就任しました。引き続きMMO開発を担当し、2007年に「Tabula Rasa」を発表して久々にゲーム業界の表舞台に復帰しましたが、2008年10月12日、NCSoftからの退社を突然発表し関係者を驚かせました。退社の理由として、その直前に長年の悲願であった宇宙旅行で得た感動を新たな活動に活かしたい、と説明しています。2009年には保有していたNCSoft社の株式を売却し、同年2月には「Tabula Rasa」のサービスが終了しました。

特徴的な人物像

ギャリオット氏はそのユニークな人物像でも知られています。テキサス州オースティンにあった自宅「Britannia Manor」は、まるで忍者屋敷のような仕掛けや、地下に再現されたRPGダンジョン、さらには天文台を備えるなど、非常に個性的でした。一時期はハロウィーンの際に「お化け屋敷」として一般に公開されるほどでした（現在は売却済み）。

趣味には「悪魔趣味」（13や666といった数字を好む）やコスプレがあり、その多才さを示しています。中でも特筆すべきは宇宙への情熱で、「NASAから声がかかれば全てを投げうって宇宙へ行く」と語るほどでした。そしてその夢を現実のものとし、2008年10月14日にソユーズ宇宙船で国際宇宙ステーションへの宇宙旅行を果たしました。これにより、父親のオーウェン氏に続いて親子二代で宇宙へ行った最初のアメリカ人となりました。

また、1993年には競売に出された旧ソ連の月面探査機ルノホート2号とルナ21号を購入し、これらの所有者であることも明かしています。日本文化にも深い関心を持ち、「ウルティマ」シリーズの日本語版には特別な仕様を盛り込むことが多く、日本語版「Ultima IX」では自ら日本語で声優を務めたことでも知られています。

近年では、2021年に歴史ある冒険者クラブの第45代会長に就任するなど、ゲームクリエイターの枠を超えた活動を展開しています。

主な出来事（年表）

1980年夏：「ウルティマ」の原型となる「アカラベース」を開発・販売。
1980年秋：テキサス大学に入学。
1983年：Origin Systems社を設立。
1992年9月：Origin Systems社がEA社に統合。
2000年3月：EA社から解任される。
2000年4月：Destination Games社を設立。
2001年5月：NCSoft社のアメリカ法人に入る。
2004年2月：Origin Systems社が閉鎖される。
2008年10月：ソユーズ宇宙船で宇宙旅行を実施。NCSoftからの退社を表明。
2009年：NCSoft株を売却。「Tabula Rasa」サービス終了。
* 2021年：冒険者クラブ会長に就任。

これらの活動を通して、リチャード・ギャリオット氏はゲーム業界だけでなく、科学や冒険の分野でもその名を刻んでいます。

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