リビアの国章

リビアの国章：未だ定まらぬ国の象徴

リビアの国章は、2011年のカダフィ政権崩壊後、正式なものが定められていません。本記事では、リビアの国章の変遷を辿りながら、その現状と課題を解説します。

独立以前

現在のリビアにあたる地域は、16世紀からオスマン帝国の統治下にありました。1911年から1912年の伊土戦争の結果、イタリア王国に割譲され、同国の植民地となりました。当初はキレナイカとトリポリタニアの2つに分割統治されていましたが、1934年に両者は合併し、イタリア領リビアとなりました。第二次世界大戦中の1943年には、イギリスとフランスがリビアを占領し、イタリアによる統治は終焉を迎えました。

王制時代（1951年 - 1969年）

イギリスとフランスの共同統治を経て、1951年にリビア連合王国として独立を果たしました。1963年には連邦制を廃止しリビア王国となりましたが、国章は連合王国のものがそのまま使用されました。

国旗と同様に、黒地にイスラムの象徴である星と三日月が描かれていましたが、国旗とは異なり上向きに配置されていました。

カダフィ政権（1969年 - 2011年）

1969年、ムアンマル・アル＝カッザーフィー（カダフィ）によるクーデターが発生し、共和制へと移行、リビア・アラブ共和国が成立しました。国章も新たに制定され、「サラディンの鷲」と呼ばれる金色の鷲のデザインが採用されました。

鷲の胸には国旗の図柄の盾が描かれ、足で掴んでいる帯には国名である「リビア・アラブ共和国」がアラビア語で記されていました。この鷲は、12世紀の英雄サラフディンにちなんだもので、当時の汎アラブ主義を象徴していました。同様に汎アラブ主義を掲げていたエジプトでも、国旗・国章に似たデザインが用いられていました。

1972年、リビアはエジプト、シリアと共にアラブ共和国連邦を結成しました。連邦および構成国の国章は、それまでリビアとエジプトが使用していたサラディンの鷲から、シリアが使用していたクライシュの鷲に統一されました。鷲が掴む帯には「アラブ共和国連邦」と記され、リビアの国章ではさらにその下に「リビア・アラブ共和国」とアラビア語で追記されていました。

1977年3月、人民主権確立宣言が実施され、ジャマーヒリーヤ体制へと移行しました。国名も社会主義人民リビア・アラブ国（2004年以降は大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国）と改称されました。同年11月、エジプトがイスラエルを訪問したことにカダフィが激怒し、連邦からの脱退を宣言。国旗・国章にも変更が加えられました。

クライシュの鷲は引き続き採用されましたが、顔の向きが右から左へ変更され、胸の盾は国旗と同じ緑一色となりました。緑色は預言者ムハンマドのターバンの色であり、カダフィによる「緑色革命」のシンボルカラーでもありました。

リビア国（2011年以降）

2011年に勃発した第一次リビア内戦によりカダフィ政権が崩壊し、リビア国民評議会がリビア唯一の政府として承認されました。2012年には全国で選挙が実施され、暫定政府としてリビア国民議会が発足しました。2014年には、国民議会に代わる議会として代議院が発足し、議員の選挙が実施されました。

しかし、これらの組織は正式な国章を採用せず、政府発行物の証明などに使用される印章やロゴに留まりました。国民評議会は当初、中央に星と三日月を配置し、上部に「リビア国民評議会」、下部に「リビア」とアラビア語で表記したロゴを使用していました。その後、意匠が変更され、下部には英語表記が加えられました。国民議会のロゴは、中央に星と三日月を配置し、「国民議会 - リビア」と英語とアラビア語で二重に囲んだデザインでした。代議院のロゴには、アラビア語・英語表記に加え、星と三日月の部分にアーチが加えられました。その他、首相や政府機関ごとに異なるロゴが使用されていました。

2013年2月に発表された新たなバイオメトリック・パスポートでは、表紙に金色の星と三日月がエンブレムとして記載されました。このエンブレムを事実上の国章と見なす場合もあります。

2014年、代議院に不満を持つイスラム系武装勢力が首都トリポリを攻撃、制圧し、新国民議会の成立を宣言しました（トリポリ政府）。一方、トリポリを追われた代議院はトブルクに避難しました（トブルク政府）。トリポリとトブルクの2つの政府が互いに正当性を主張し、国内は二重政府状態に陥りました（第二次リビア内戦）。

2015年12月、国際連合主導で統一政府の形成に向けた政治合意が両政府間で署名され、リビア国民合意政府の樹立で合意しました。しかし、代議院は国民合意政府を承認せず、内戦は継続されました。

国民合意政府のロゴは、中央に星と三日月、上部に「リビア国」、下部に「国民合意政府」とアラビア語と英語で表記されていました。トブルクの代議院は、従来のロゴを引き続き使用していたほか、カダフィ政権時代の国章を基にした独自の政府章を採用しました。

2020年8月21日、両者は停戦で合意しました。その後の話し合いの結果、統一暫定政府が樹立されることが決定し、2021年3月15日に発足しました。印章も刷新され、アラビア語で「国民統一政府 - リビア国」と記されています（英語表記はなし）。

このように、リビアの国章は、その政治情勢の変遷と共に揺れ動いてきました。未だ正式な国章が定められていない現状は、今後のリビアの国家としてのアイデンティティを確立する上で、一つの課題となっています。

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