リュッツオウ (重巡洋艦)

重巡洋艦リュッツオウ：数奇な運命を辿った艦

リュッツオウは、ドイツ海軍が建造したアドミラル・ヒッパー級重巡洋艦の1隻であり、同級の第3グループに属していました。その艦名は、プロイセンの軍人ルードヴィヒ・アドルフ・ヴィルヘルム・フォン・リュッツォウに由来し、ドイツ帝国海軍の巡洋戦艦デアフリンガー級2番艦の名を受け継ぎました。

しかし、リュッツオウは完成を前にして、その運命は大きく変わることになります。1940年、ナチス・ドイツは未完成のリュッツオウをソビエト連邦に譲渡。これにより、リュッツオウはソビエト海軍の「ペトロパブロフスク」として新たな歴史を歩み始めることになったのです。

リュッツオウからペトロパブロフスクへ

1937年 2月8日、リュッツオウはブレーメンのデシマーク造船所で起工されました。1939年 7月1日には、レーダー元帥や海軍将校が多数出席する中、進水式を迎え、ハルダー大佐（巡洋戦艦リッツオウ沈没時の艦長）の未亡人によって命名されました。しかし、第二次世界大戦勃発により、リュッツオウは未就役のまま戦火に巻き込まれることになります。

1939年11月15日、ドイツ海軍はドイッチュラント級装甲艦1番艦「ドイッチュラント」を「リュッツオウ」と改名します。この措置は、ソ連との新型重巡洋艦売却交渉を隠蔽する意図があったとされています。その後、1940年 2月11日の時点では、リュッツオウは艦橋の基礎工事とA砲塔・D砲塔が搭載された状態でした。そして、350万トンの物資との交換条件で、レニングラードのオルジョニキーゼ記念工場に曳航され、建造作業が再開されました。

1940年 9月25日、リュッツオウは「ペトロパヴロフスク」と改名されました。ソ連海軍にとって、この艦は82型巡洋艦の技術、特に溶接構造の船体や装甲配置、新型ボイラー、そして10.5cm連装高角砲などの貴重な教材となりました。第17中央設計局は、図面や資料を研究し、技術の吸収と向上に努めました。

独ソ戦と浮き砲台としての活躍

1941年、ドイツによるソ連侵攻の準備が開始されると、ドイツ人技師たちは「ペトロパブロフスク」の建造を中断しました。同年6月のドイツによるソ連侵攻直前、完成度は51%でしたが、最低限の運用能力を有していたため、8月15日には実戦配備に就きました。こうして、「ペトロパブロフスク」は浮き砲台として、レニングラード防衛戦に投入されることになりました。

レニングラード防衛戦では、20.3cm砲による艦砲射撃でドイツ軍と交戦しました。しかし、この戦闘中にA砲塔の1門が破裂し、残りの3門で1700発以上を発射しましたが、9月17日には砲爆撃を受けて被弾浸水し、港内で着底しました。1942年4月初旬、ドイツ空軍の空襲によってさらに損害を受けましたが、同年9月10日に浮揚され、修理のためクロンシュタットへ曳航されました。部分的な修理後、「ペトロパブロフスク」は戦線に復帰し、1944年1月には、赤軍のレニングラード包囲突破作戦を火力支援しました。

その後の変遷と終焉

1944年 9月1日、「ペトロパブロフスク」は「タリン」と改名されました。その後、1953年3月11日には「ドニエプル」と改称され、練習艦として運用されることになります。そして、1956年12月からは海上兵舎として改修され、名称も「PKZ-112」と変更されました。

数々の変遷を経て、1958年4月に「PKZ-112」は除籍され、1959年から1960年にかけて解体されました。リュッツオウとして生まれ、ペトロパブロフスク、タリン、ドニエプル、そしてPKZ-112と、その時代ごとに姿を変え、数奇な運命を辿った艦の生涯は、こうして幕を閉じたのです。

参考文献

ゴードン・ウィリアムソン、イアン・パルマ―『世界の軍艦イラストレイテッド２　German Pocket Battleships 1939-45　ドイツ海軍のポケット戦艦　1939 ― 1945』株式会社大日本絵画、2006年
ゴードン・ウィリアムソン、手島尚（訳）『ドイツ海軍の重巡洋艦　1939-1945』大日本絵画、2006年
大塚好古『世界の重巡洋艦パーフェクトガイド』、2007年、学習研究社
エドウィン・グレイ『ヒトラーの戦艦　ドイツ戦艦7隻の栄光と悲劇』都島惟男(訳)、光人社、2002年
木津徹、石渡長門『世界の艦船　2010.No.718　近代巡洋艦史』株式会社海人社、2009年
瀬名堯彦『幻のソ連戦艦建造計画』光人社NF文庫、2017年
* アンドレイ・V・ポルトフ『ソ連/ロシア巡洋艦建造史』、世界の艦船増刊第94集、2010年、海人社

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