リューシッペー

ギリシア神話に登場する人物の中には、同じ名前を持つ複数の存在が語り伝えられていることがあります。リューシッペー（古希: Λυσίππη, Lȳsippē）もその一つで、主に二人の女性が知られています。この名前は長母音を省略してリュシッペと表記されることもあります。

プロイトスの娘リューシッペー

一人目の有名なリューシッペーは、ティーリュンスの王プロイトスとその妻ステネボイアの間に生まれた娘です。彼女にはイーピノエーとイーピアナッサという姉妹がおり、またメガペンテースという弟がいました。物語によると、リューシッペーとその姉妹は、ある理由から神々への敬意を欠いた振る舞いをしたために、罰として狂気に陥ってしまいます。彼女たちは正気を失い、荒野をさまよったとされています。しかし、優れた予言者であり治療師でもあったメラムプースによって、姉妹は無事に狂気から解放され、正気を取り戻すことができました。

正気に戻った後、リューシッペーは彼女を癒したメラムプースの兄弟にあたるビアースと結婚しました。彼女とビアースの間には、アナクシビアーという娘が生まれます。このアナクシビアーは、後にイオールコスの王ペリアースの妻となり、有名な英雄アルケースティスの母となった人物です。このように、プロイトスの娘リューシッペーは、神話上の重要な人物の血筋につながる存在として語られています。

プロラーオスの娘リューシッペー

もう一人のリューシッペーは、エーリス地方の人物プロラーオスの娘として伝えられています。彼女はピラントスとラムポスという二人の息子をもうけました。この息子たちの運命は、リューシッペー自身の物語と深く結びついています。

一説によると、リューシッペーの息子であるピラントスとラムポスは、コリントス地方で開催される有名な競技祭であるイストミア競技祭に参加するために向かいました。しかし悲劇的なことに、彼らは競技が始まる前に、他の選手との間で起こった争いが原因で命を落としてしまったとされています。息子たちの突然の死を知ったリューシッペーは、激しい悲しみと怒りから、イストミア競技祭に参加するエーリスの人々すべてを呪ったと言われています。この呪いを恐れたエーリスの人々は、それ以降、イストミア競技祭への参加を一切取りやめたという伝説があります。この物語は、古代ギリシアのポリス間における競技祭への参加や、それにまつわる様々な伝承を示す一例と言えるでしょう。

その他のリューシッペー

上記の二人のほかにも、リューシッペーという名前を持つ女性が神話や伝説に登場することがあります。例えば、英雄ケパロスがケパレーニア島で結婚した相手としてリューシッペーの名前が挙げられることがあります。また、小アジアのミューシア地方の王テウトラースの母親や、多くの娘を持ったことで知られるテスピオスの娘の一人にも、リューシッペーという名前の人物がいたと伝えられています。これらのリューシッペーに関する情報は断片的ですが、同じ名前が異なる物語の中に現れる多様性を示しています。

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