リリエンステルヌス

リリエンステルヌス：ヨーロッパ最大の三畳紀獣脚類

概要

リリエンステルヌス（学名 Liliensternus）は、約2億1000万年前の後期三畳紀（ノール期～レート期）に、現在のドイツに生息していた獣脚類恐竜です。体長約5メートルに達する中型種で、二足歩行の地上性捕食動物として君臨していました。ヨーロッパで発見された三畳紀の獣脚類の中では、最も完全で大きな化石の一つとして知られています。

命名と発見

属名と種小名 Liliensternus liliensterni は、アマチュア古生物学者で医学博士でもあったヒューゴ・リューレ・フォン・リリエンシュテルン伯爵への献名です。リリエンシュテルン伯爵は、1934年に自身の城に古生物学博物館を設立し、ドイツにおける古生物学の発展に貢献しました。リリエンステルヌスは1934年、フリードリヒ・フォン・ヒューネによって記載されました。当初は Halticosaurus liliensterni と命名されましたが、その後、現在の学名に変更されています。

化石は、主にドイツのテューリンゲン州にあるグローサー・グライフベルク近郊の中部コイパー層群のトロッシンゲン層から発見されました。追加の標本は、スイスやドイツの他の地域からも発見されています。これらの化石は、泥灰岩や砂岩の中から発見されており、後期三畳紀の地層に由来します。発見された化石には、部分的な骨格、頭骨の一部、歯、椎骨、四肢骨などが含まれています。現在、これらの化石はベルリンのフンボルト博物館に収蔵されています。

特徴

リリエンステルヌスは、推定体長約5メートル、体重127～200キロとされています。大腿骨よりも脛骨が短いという特徴を持ち、これはコエロフィシスとディロフォサウルスの間の形態を示唆しています。頭部は完全な化石が発見されていないため不明な点が多いですが、多くの復元図ではディロフォサウルスのようなとさかを持つ姿で描かれています。また、腸骨が異常に短いのも特徴の一つです。

化石標本の分析からは、既知の標本の個体は幼体または亜成体であった可能性が示唆されています。仙椎が2つしか癒合しておらず、神経弓と椎体の縫合面も確認できることから、その成長段階を推測できます。

分類

当初はハルティコサウルス科に分類されていましたが、現在では基底的なコエロフィシス上科に位置づけられています。1993年には、フランスで発見された化石に基づき新種 Liliensternus airelensis が記載されましたが、その後、独自の属ロフォストロフェウスとして分類され直されました。リリエンステルヌスは、他のコエロフィシス上科と比較して、頸椎の形態、側腔の数、下横関節突起窩の発達度合い、神経棘の形状、腸骨の隆起の有無などに特徴が見られます。

古生態学

リリエンステルヌスは、活発な二足歩行性の捕食動物であり、プラテオサウルスなどの同時代の植物食恐竜を捕食していたと考えられています。生息環境は、爬虫類、獣弓類、そして様々な恐竜が豊富に生息する氾濫原であったと考えられています。プラテオサウルスの化石群からは、リリエンステルヌスの歯が発見されており、捕食者としての役割を裏付ける証拠となっています。一部の研究では、プラテオサウルスの化石が集中して発見される場所が、かつて泥沼だった可能性が指摘されており、大型のプラテオサウルスが泥に嵌り込み、リリエンステルヌスのような捕食動物に捕食されたという仮説が提唱されています。

まとめ

リリエンステルヌスは、後期三畳紀のヨーロッパにおいて重要な役割を担っていた捕食動物の一つです。その完全な化石と詳細な研究から、三畳紀の生態系や獣脚類の進化を理解する上で、重要な情報を提供しています。今後の研究によって、さらに多くのことが明らかになることが期待されます。

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