リンスター公爵

リンスター公爵（英: Duke of Leinster）は、イギリスの貴族制度において過去二度にわたり創設された公爵位です。この爵位はアイルランド貴族の筆頭とされており、現在はフィッツジェラルド家が代々継承しています。爵位名はアイルランドの地方名レンスターに由来しますが、発音は「リンスター」となります。

歴史

第1期創設：ションバーグ家

リンスター公爵位が最初に誕生したのは1691年のことでした。イングランド王兼アイルランド王ウィリアム3世の指揮下にあった軍人、メイナード・ションバーグが、ボイン川の戦いにおける功績を認められ、その恩賞としてこの公爵位を与えられました。しかし、メイナード・ションバーグには嫡出の男子がなく、唯一の息子にも先立たれていたため、彼の死去をもって爵位は一代限りで断絶しました。

第2期創設：フィッツジェラルド家

その後、リンスター公爵位は1766年に再び創設されることになります。この時、爵位を授けられたのは、既にキルデア侯爵であったジェイムズ・フィッツジェラルドでした。彼は第19代キルデア伯爵ロバート・フィッツジェラルドの子であり、父の死後に第20代キルデア伯爵を継承し、さらに1761年にはキルデア侯爵に叙されていました。これ以降、リンスター公爵位は連綿とフィッツジェラルド家によって受け継がれ、現在に至っています。

フィッツジェラルド家は、1169年にノルマン人がアイルランドへ侵攻した際にウェールズから渡来し、アイルランドに定着したウェールズ系ノルマン人を祖とする由緒ある家系です。彼らの歴史はアイルランド史と深く結びついています。1316年にジョン・フィッツジェラルドがキルデア伯爵に叙されて以来、同家はアイルランドにおける主要な貴族としての地位を確立しました。特に15世紀から16世紀にかけて、第8代キルデア伯爵ジェラルド・フィッツジェラルドとその息子である第9代キルデア伯爵ジェラルド・フィッツジェラルドの父子は、アイルランド総督（Lord Deputy）として強大な権勢を振るいました。

しかし、第9代伯爵の息子である第10代キルデア伯爵トマス・フィッツジェラルドは、イングランド王ヘンリー8世に対し反乱（「絹衣のトマスの乱」として知られる）を起こしましたが、鎮圧されて敗れ、爵位も剥奪されるという危機に直面します。一族は一時的に没落の淵に立たされましたが、トマスの弟ジェラルド・フィッツジェラルドが後に爵位を回復することに成功し、フィッツジェラルド家はその後もアイルランドの名門として存続していくことになります。

邸宅と現在の状況

フィッツジェラルド家は元々、キルデア県メイヌースにあるメイヌース城を拠点としていました。「絹衣のトマスの乱」でメイヌース城が陥落した後、彼らはキルデア県キャッスルダーモットのキルキー城に移りました。18世紀になり、初代リンスター公爵はメイヌースに広大なカートン・ハウスを、そしてダブリンにレンスター・ハウスを建設しました。これらの邸宅は、フィッツジェラルド家の繁栄を象徴するものでした。

しかし、20世紀になると、これらの主要な資産はフィッツジェラルド家の手を離れていきます。例えば、レンスター・ハウスはアイルランド自由国に売却され、現在はアイルランド議会（ウラクタス）の議事堂として使用されています。かつての壮麗な邸宅群を手放したフィッツジェラルド家は、現在、イギリスのオックスフォードシャー州ラムスデンに居を構えています。

現当主と保有爵位

現在の当主は、第9代リンスター公爵モーリス・フィッツジェラルド閣下（1948年生まれ）です。彼はリンスター公爵位の他、以下の爵位を保有しています。

第9代リンスター公爵（アイルランド貴族、1766年創設）
第9代キルデア侯爵（アイルランド貴族、1761年創設）
第28代キルデア伯爵（アイルランド貴族、1316年創設）
第9代オファリー伯爵（アイルランド貴族、1761年創設）
第9代バッキンガム州タプローのリンスター子爵（グレートブリテン貴族、1747年創設）
第14代オファリー男爵（アイルランド貴族、1620年創設）
第6代キルデア男爵（連合王国貴族、1870年創設）

これらの爵位からも、フィッツジェラルド家がアイルランド貴族として長い歴史を持ち、またイギリス貴族としても認められていることが分かります。現在のリンスター公爵位の推定相続人は、当代の甥にあたるエドワード・フィッツジェラルド氏（1988年生まれ）です。

歴代リンスター公爵一覧

リンスター公爵（第1期；1691年創設）

初代：メイナード・ションバーグ（1641年 - 1719年） - 1693年にションバーグ公爵を襲爵したが、1719年に男子なく死去し、爵位は断絶した。

リンスター公爵（第2期；1766年創設）

初代：ジェイムズ・フィッツジェラルド（1722年 - 1773年）
第2代：ウィリアム・フィッツジェラルド（1749年 - 1804年）
第3代：オーガスタス・フィッツジェラルド（1791年 - 1874年）
第4代：チャールズ・フィッツジェラルド（1819年 - 1887年） - 1870年に連合王国貴族キルデア男爵に叙爵された。
第5代：ジェラルド・フィッツジェラルド（1851年 - 1893年）
第6代：モーリス・フィッツジェラルド（1887年 - 1922年）
第7代：エドワード・フィッツジェラルド（1892年 - 1976年）
第8代：ジェラルド・フィッツジェラルド（1914年 - 2004年）
* 第9代：モーリス・フィッツジェラルド（1948年 - ） - 現当主。

リンスター公爵位の歴史は、アイルランドとイギリスの複雑な関係、そして有力貴族の栄枯盛衰を映し出しています。

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