ルイス・ガルシア・ベルランガ

ルイス・ガルシア・ベルランガ：スペイン映画史に輝く巨匠

ルイス・ガルシア・ベルランガ・マルティ (1921年6月12日 - 2010年11月13日) は、スペイン・バレンシア出身の映画監督、脚本家です。彼の名は、スペイン映画史に深く刻まれています。特にキャリア初期の代表作『ようこそ、マーシャルさん!』(1952年)は、1960年代に台頭したヌエボ・シネ・エスパニョール(新しいスペイン映画)を象徴する作品として高く評価され、国際的な注目を集めました。

名門の出自と激動の時代

ベルランガは、政治家一家に生まれました。父方の祖父と父は共に法曹界と政界で活躍し、共和主義者でした。スペイン内戦勃発後、父親は共和派として亡命、その後逮捕され、フランコ体制下で投獄生活を送ることになります。一方、母方は実業家の家系で、特に叔父の一人は銀行家であり劇作家でもありました。この複雑な家系背景と激動の時代が、彼の映画作風にも影響を与えたことは想像に難くありません。

ベルランガ自身も、青年期にスペイン内戦を経験、その後は青師団に所属し、第二次世界大戦の東部戦線に従軍するなど、波乱に満ちた人生を送ります。この経験が、彼の作品に深みと複雑さを与えたと言えるでしょう。

国立映画研究所での研鑽と才能開花

1947年、ベルランガはマドリードの国立映画研究所(IIEC)に入学します。そこで彼は映画制作技術を磨き、映画を新たな芸術表現として捉える視点を得ました。バルデムとの共同監督作品である初期の長編『あの幸せなカップル』は、コメディをベースとしながらも社会批判を織り交ぜた作品で、彼の才能の片鱗を示しました。

国際的評価とフランコ体制下の苦悩

『ようこそ、マーシャルさん!』は、スペイン映画が世界に羽ばたくきっかけとなった作品です。カンヌ国際映画祭で受賞するなど、国際的な成功を収めました。しかし、この作品はフランコ政権の検閲官を激怒させ、その後ベルランガの作品は検閲を通過することがほとんどなくなります。検閲を回避するため、ベルランガは様々な工夫を凝らし、皮肉や風刺を巧みに用いて、スペイン社会の現実を表現しようとしました。

フランコ体制下では、彼の才能が思う存分発揮できるわけではありませんでした。それでも、彼は検閲をかいくぐり、スペイン社会の矛盾や現実を独特のブラックユーモアを交えて描き続けました。『奇跡の木曜日』などは、検閲をすり抜けた大胆な作品として知られています。

ラファエル・アスコナとのタッグと多様な作品群

脚本家ラファエル・アスコナとの協働は、ベルランガのキャリアに大きな影響を与えました。2人は7作品でタッグを組み、多くの傑作を生み出しました。『プラシド』はアカデミー外国語映画賞ノミネート作品となり、国際的な評価を高めました。他にも、社会風刺やブラックユーモアが光る作品を数多く世に送り出しました。

フランコ死後と新たな表現の自由

フランコ死後の民主化は、ベルランガに新たな表現の自由をもたらしました。彼は「ナシオナル3部作」と呼ばれる『国民銃』『国有財産』『ナシオナル第3部』で、新体制下の上流中産階級の虚飾や矛盾を鋭く描き、大きな人気を獲得しました。このシリーズは、彼の代表作の一つとして高く評価されています。

後進の育成とスペイン映画界への貢献

ベルランガは国立映画研究所で長年教鞭をとり、後進の育成にも力を注ぎました。彼はスペイン映画芸術科学アカデミー設立にも尽力し、ゴヤ賞創設にも深く関わりました。

病と死、そしてレガシー

晩年はアルツハイマー病を患い、2010年に89歳で亡くなりました。彼の死は、スペイン映画界に大きな喪失をもたらしました。しかし、彼の作品群は、スペイン映画史に残る偉大な遺産として、これからも多くの人々に感動と刺激を与え続けることでしょう。彼のブラックユーモアに満ちた作品群は、スペインの社会と歴史を深く理解する上で、欠かせないものとなっています。

ルイス・ブニュエル、フアン・アントニオ・バルデムとの関係

ベルランガは、ルイス・ブニュエル、フアン・アントニオ・バルデムと共に「3人の優れたB」と呼ばれ、カルロス・サウラを加えて「3B1S」と呼ばれることもあります。彼らは同時代のスペインを代表する映画監督として、それぞれ独自の作風でスペイン映画界を牽引しました。ベルランガは、彼らと比較されることも多かったですが、独自のブラックユーモアと社会風刺を武器に、スペイン映画史に燦然と輝く功績を残しました。

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