ルキウス・ムナティウス・プランクス

ルキウス・ムナティウス・プランクス：激動の時代を生き抜いた政治家

ルキウス・ムナティウス・プランクス（紀元前87年頃 - 紀元前15年）は、共和政ローマ末期から初期帝政期にかけて活躍した政治家であり、軍人です。平民出身でありながら、ガイウス・ユリウス・カエサルの親族として、そのキャリアをスタートさせました。彼は、執政官（紀元前42年）や監察官（紀元前22年）といった要職を歴任し、激動の時代を生き抜きました。フランスの政治家タレーランは、プランクスを「忠誠を尽くす相手を絶えず変えることによって危険な状況を生き残った古典的な例」と評しています。

初期の経歴

プランクスの初期の経歴については、詳細な記録は残っていません。彼の父、祖父、曽祖父もルキウスという名前であったことが分かっています。プランクスは、カエサルの幕僚として、ガリア戦争やポンペイウスとの内戦に参加し、軍事的な才能を発揮しました。また、プランクスの墓碑には、彼が植民都市アウグスタ・ラウリカ（現在のスイス・バーゼル近郊）とルグドゥヌム（現在のフランス・リヨン）を建設したことが記されています。これらの都市建設への貢献は、彼の政治手腕を示すものと言えるでしょう。

ローマ内戦と変節

紀元前44年3月15日にカエサルが暗殺された当時、プランクスはガリア・トランサルピナの総督を務めていました。マルクス・アントニウスがデキムス・ユニウス・ブルトゥス・アルビヌスをムティナ（現在のモデナ）で包囲した際、プランクスはキケロと連絡を取り、元老院派の軍団の離脱の可能性について協議しました。しかし、プランクスは、マルクス・アエミリウス・レピドゥスが彼の軍の動きを妨害するだろうと判断し、支援を断念しました。その後、レピドゥス、アントニウス、オクタウィアヌスによる第二回三頭政治が成立すると、プランクスはアントニウスを支持しました。紀元前42年にはレピドゥスと共に執政官に就任し、紀元前40年にはアシア属州の総督を務めました。

紀元前36年、アントニウスがパルティア遠征を敢行した際、プランクスはシリア属州の総督でした。しかし、アントニウスがパルティアに大敗すると、プランクスはアントニウスを見限り、オクタウィアヌスの陣営へと鞍替えします。この決断は、彼の政治的な嗅覚の鋭さを示すものと言えるでしょう。スエトニウスによれば、オクタウィアヌスに対して、ローマ第二の建国者として「ロムルス」ではなく「アウグストゥス」の称号を用いるように勧めたのはプランクスであったとされています。

アウグストゥスの下で

オクタウィアヌスは、紀元前27年にアウグストゥスの称号を得て、ローマ帝国の初代皇帝となりました。プランクスは、アウグストゥスの下で引き続き要職を務め、紀元前22年にはパウッルス・アエミリウス・レピドゥスと共に監察官に任命されました。しかし、彼らの監察官時代は、特に目立った功績を残すことはなく、ウェッレイウス・パテルクルスは、これを「双方の監察官にとって恥ずべきこと」と評しています。

スエトニウスの『皇帝ネロ伝』には、ネロの祖父であるグナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスが、按察官に過ぎなかった頃、監察官プランクスに道を開けさせたと記されています。このエピソードは、監察官としてのプランクスの評判が芳しくなかったことを示唆しています。

墓

プランクスの遺体は失われていますが、彼の墓は現在も残っています。ガエータの海を見下ろす丘の上に建てられた巨大な円柱形の霊廟は、修復を経て現在もその姿を留めており、彼を讃える小さな展示が行われています。

子孫

プランクスには、息子と娘がいました。息子ルキウス・ムナティウス・プランクスは、紀元13年に執政官を務めました。娘ムナティウス・プランキアは、悪名高いグナエウス・カルプルニウス・ピソと結婚し、ゲルマニクス毒殺事件に関与したとして告訴され、最終的には自殺しました。彼女の息子たちは生き残りましたが、波乱に満ちた人生を送りました。

プランクスは、共和政ローマから帝政ローマへと移行する激動の時代を、巧みな政治的判断と変節によって生き抜いた人物です。彼の生涯は、ローマ史における重要な転換期を理解するための貴重な手がかりとなるでしょう。

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