ルシッチ・グループ

破壊工作・攻撃偵察グループ「ルシッチ」

「ルシッチ」（ロシア語: Диверсионно-штурмовая разведывательная группа «Ру́сич»）は、2014年から2015年のドンバス戦争、そして2022年以降のロシアのウクライナ侵攻において、親ロシア派として活動する極右主義の戦闘部隊です。この部隊は、ロシアとウクライナの間の紛争に深く関与しており、その残虐な行為で国際的な注目を集めています。

歴史

「ルシッチ」の歴史は2009年に始まり、軍事訓練施設が設立されました。創設者のアレクセイ・ミカコフ（1991年生まれ）は、サンクトペテルブルク出身の悪名高いネオナチであり、過去には動物虐待の動画を投稿して物議を醸しました。彼はドンバスに派遣される前は「Fritz」というニックネームで呼ばれていましたが、その後「Serb」というコールサインに変更しました。ミカコフは兵役を経て、ロシア帝国運動の戦闘部門が運営するノヴォロシア支援調整センター（KCPN）で軍事訓練プログラムに参加しました。

ミカコフによると、「ルシッチ」はロシアとヨーロッパからの義勇兵で構成された閉鎖的な集団であり、ポーランドのネオナチ集団「Zadruga」のメンバーも参加していました。また、ロシア連邦麻薬流通監督庁の特殊部隊のメンバーも部隊に配属されていたことが判明しています。部隊はルーン文字、特に「ティワズ」（ᛏ）、コロヴラート、バルクヌートなどのシンボルを使用し、ロシア帝国旗（黒・黄・白）を逆順で使用することもあります。

「ルシッチ」は民間軍事会社ワグネル・グループとの密接な関係が指摘されており、ミカコフとワグネルの司令官ドミトリー・ウトキンはどちらもロシア空挺軍の第76親衛空挺師団の出身です。

2022年、「ルシッチ」とその指揮官であるミカコフとヤン・ペトロフスキーは、ハルキウ州での戦闘における「特別な残虐行為」により、アメリカ合衆国の制裁対象となりました。

戦闘への参加

ドンバス戦争

「ルシッチ」はドンバス戦争中、ルガンスク人民共和国軍の一部として活動し、主にロシア派分離主義者の司令官アレクサンダー・「バットマン」・ベドノフ中佐率いる第4独立自動車化狙撃旅団と協力しました。ルハンスク空港周辺での戦闘や、2014年9月5日のウクライナ軍アイダール大隊への襲撃作戦に参加しました。2015年1月にベドノフ中佐が殺害された後、「ルシッチ」はウクライナから撤退しました。

この間、「ルシッチ」のメンバーはウクライナ兵の遺体から耳を切り落としたり、火をつけたり、捕虜を拷問するなどの行為を行い、ウクライナや国際刑事裁判所（ICC）から戦争犯罪として訴追されています。殺害されたウクライナ兵の写真や、グループが捕虜を取らないという逸話から、ウクライナのメディアやブロガーの間で否定的に言及され、ドイツ連邦情報局（BND）の内部文書では「極度の残虐行為で知られ」、リーダーの1人がサディストであると記されていました。2017年、ウクライナ軍事検察庁はミカコフを40人のウクライナ兵殺害に関与したとして告発しました。

ドンバス戦争後、ミカコフは極右思想を掲げる民間軍事会社E.N.O.Tコープと共にロシアの特別キャンプで10代の若者達への戦闘訓練に従事しました。

シリア内戦

「ルシッチ」はシリア内戦中、ロシアの石油企業が所有する戦略的に重要な油田やガスパイプラインの警備を担当していました。メンバーの一人が古代遺跡の前でナチス式の敬礼をする写真をInstagramに投稿したこともあります。また、ヤン・ペトロフスキーは「Þorbrandr」という武装集団を率いてシリア内戦に参加し、ノルウェーの独立メディアのインタビューでノルウェー国旗を掲げ、自身をノルウェー、スウェーデン、アイスランド出身の北欧人義勇兵であると主張しました。しかし、実際にはペトロフスキー以外の北欧人の参加は確認されておらず、「Þorbrandr」は「ルシッチ」の別動隊であることが判明しました。ペトロフスキーは2016年にノルウェーの在住権を剥奪されています。

2022年ロシアのウクライナ侵攻

2022年4月8日、「ルシッチ」はロシアが攻撃を集中させるとみられるウクライナ東部地域に姿を現しました。同年8月28日には、ミカコフがウクライナ軍人の耳を切り落とし、焼かれた遺体と写真を撮ったと報じられました。9月22日、ミカコフはTelegramで、部下や他のロシア兵に対し、捕虜となったウクライナ兵を尋問・殺害し、遺体の場所と引き換えに親族から活動資金を得るよう指示しました。また、10月にはウクライナの児童（10歳以上の女子、5歳以上の男子）の根絶を提案しました。さらに、11月には麻薬取引、ウクライナの慈善団体のウェブサイトのハッキング、マルウェアによる暗号通貨の窃盗を行っていたことが判明し、ミカコフ本人がMedusaの取材でこれを認めています。

2023年8月25日、ペトロフスキーがヘルシンキで逮捕され、フィンランド当局に拘留されました。翌26日、「ルシッチ」はTelegramチャンネルで、ペトロフスキーがロシアに引き渡されるまで部隊は戦闘任務を停止すると発表しました。

2025年1月6日、「ルシッチ」はミカコフが2022年からアフマト・カディロフ名称特別任務民警連隊を率いるアプティ・アラウディノフ司令官と会談したと発表しました。ミカコフは会談が「友好的な雰囲気」で行われ、「全員が納得していなかった」ものの、「紛争状況の排除と個人的な関係の発展に関する共通の立場」を築くことができたと述べています。この会談後に批判を受けたミカコフは、「差し伸べられた友情の手をどうして拒まなければならないのか？」と動画で反論しました。「ルシッチ」とアフマト大隊の間では、2024年に子供たちの愛国教育を巡って紛争が起きており、「ルシッチ」はチェチェン人が愛国教育を行うことに反対していました。