ドンバス戦争

ドンバス戦争：終わりの見えない紛争

ドンバス戦争は、2014年からウクライナ東部のドネツィク州とルハーンシク州（ドンバス地域）で継続している武力紛争です。この紛争は、ウクライナの政治変動、ロシアの関与、そして国際的な緊張という複雑な要素が絡み合って発生しました。一時は停戦協定が締結されたものの、その後の度重なる違反行為によって、紛争は未だに終結していません。

背景

2014年、ウクライナでユーロマイダン革命が起こり、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領が失脚し、ロシアへ亡命しました。この出来事がきっかけとなり、ウクライナ東部では親ロシア派による抗議活動が活発化しました。特にドネツィク州とルハーンシク州では、ロシアの支援を受けた分離主義グループが勢力を拡大し、ウクライナ政府との武力衝突へと発展しました。

当初、これらの抗議活動は国内的な不満の表出でしたが、ロシアが背後で組織的な政治・軍事活動を開始したとの見方も存在します。一方で、親ロシア派メディアは、ロシアは当事者ではなく、ミンスク議定書の履行を要求しているに過ぎないとしています。

ドネツィク州とルハーンシク州の動向

ドネツィク州

2014年3月、親ロシア派の抗議者たちはドネツィク州庁舎を占拠しましたが、ウクライナ保安庁によって鎮圧されました。しかし、4月6日には再び集会が開かれ、クリミアと同様の住民投票が要求されました。デモ隊は州庁舎を占拠し、独立を支持する評決を行いました。そして、4月7日にはドネツク人民共和国（DPR）の樹立を宣言しました。

ルハーンシク州

ルハーンシク州でも同様に、4月6日に活動家たちがウクライナ保安庁の建物を占拠しました。彼らは、逮捕された分離主義者の指導者の釈放、自治権を求める住民投票、ロシアとの連邦入りなどを要求しました。この集会で、ヴァレリー・ボロトフが「人民知事」に選出され、5月11日と18日に住民投票を行うことが発表されました。そして、4月27日にルガンスク人民共和国（LPR）が宣言されました。

戦争の概要

2014年4月12日、所属不明の分離主義武装勢力がウクライナ内務省のドネツィク事務所を占拠し、その後、親ロシア派武装勢力が州内の多くの都市で政府庁舎を占拠しました。4月27日には、ウクライナ国営テレビの地方局が占領され、ロシアのテレビ番組が放送されるようになりました。

これに対し、ウクライナは「対テロ作戦」を開始し、占拠された庁舎の奪還を図りました。しかし、ロシアは「ハイブリッド戦略」を用いて、非正規軍、正規ロシア軍、従来の軍事支援を組み合わせて分離主義勢力を支援し、情勢はさらに悪化しました。

2014年8月、ウクライナは親ロシア勢力の支配地域を大幅に縮小することに成功しましたが、ロシアは人道的支援を名目とした車列をウクライナ領内に入れ、親ロシア勢力を支援しました。その後、ウクライナはロシアによる「ステルス侵略」を非難しました。

2014年9月5日、ウクライナ、ロシア、ドネツク、ルガンスクの四者はミンスク議定書に署名しましたが、停戦違反は頻繁に発生しました。2015年1月に停戦は完全に崩壊し、紛争は再燃しました。2015年2月12日には、ミンスク2が締結されましたが、その後も戦闘は続きました。

主な戦闘

- スラヴャンスクの戦い
- クラマトルスクの戦い
- マリウポリの戦い
- 第一次ドネツク空港の戦い
- ルハーンシク国境基地包囲戦
- シャフタールスク州の戦い
- イロヴァイスクの戦い
- 第二次ドネツク空港の戦い
- デバルツェボの戦い
- シロキネの戦い
- アブディイフカの戦い

民間人への攻撃

- スラヴャンスクの虐殺
- マレーシア航空17便撃墜事件
- ヴォルノヴァーハ砲撃
- マリウポリ砲撃

戦闘部隊

反ウクライナ政府側の分離主義勢力

- ドンバス人民兵
- スパルタ大隊
- ソマリア大隊
- ヴォストーク大隊
- ロシア正教軍
- 外国人部隊（ネオ・コサック隊、チェチェン準軍事組織など）

ウクライナ政府側の勢力

- ウクライナ国防省
- ウクライナ軍
- 国家親衛隊
- 特殊任務巡回警察
- ジョハル・ドゥダエフ大隊
- 志願兵部隊
- 外国人兵士

ロシアの関与

ロシアは、ドンバス戦争において、当初は分離主義勢力を支持する発言に限定されていましたが、その後、組織的な政治活動や軍事行動を開始しました。ロシア市民は分離主義運動を掌握し、ロシアからのボランティアや資材によって支援されました。

2014年5月以降、ロシアはハイブリッド戦略を採用し、情報漏洩、非正規の戦闘員、正規ロシア軍、従来の軍事支援を組み合わせて分離主義者を支援しました。2014年8月には、ロシアはハイブリッド戦略を放棄し、ウクライナ領内に侵攻しました。

ロシアは、ドンバスにおけるロシア兵の存在を否定しつつも、軍事専門家の存在は認めています。

2022年2月21日、プーチン大統領はドネツクとルガンスクの独立を承認し、両地域への軍の派遣を命じました。24日には、ウクライナへの全面侵攻を開始しました。

人道上の懸念

国連は、分離主義勢力による人権侵害を指摘し、標的の殺害、拷問、拉致、無法状態の拡大を報告しています。また、ジャーナリストや国際監視団への脅迫や攻撃、ウクライナ統一支持者への殴打や攻撃も報告されています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、分離主義勢力による誘拐、攻撃、嫌がらせを指摘し、アムネスティ・インターナショナルは、ウクライナ政府支持派の志願兵大隊による人道支援の妨害を指摘しています。

国連の報告によると、少なくとも1,129人の民間人が死亡し、3,442人が負傷しており、不動産やインフラに多大な損害が出ていると報告されています。

難民

2014年8月上旬までに、少なくとも73万人がドンバスでの戦闘からロシアに向けて避難しました。国内難民の数も増加し、2015年4月までに、少なくとも130万人のウクライナ国内避難民が発生しました。

死傷者

2020年2月中旬までに、ドンバス戦争による死亡者数は13,000～13,200人とされています。

- ウクライナ政府軍：4,444人以上の兵士が死亡
- 分離主義勢力：国連の報告によると5,650人が死亡

国際社会の反応

NATOは、ロシアの行動を非難し、ドンバスにおける軍事状況の評価を修正しました。ロシア外務省は、ウクライナ当局の主張に反論し、ウクライナの安定化を促進する努力を主張しました。アメリカ合衆国は、ウクライナへの軍事顧問の派遣と非致死兵器による軍事支援を行いました。

ウクライナの世論

ウクライナの世論調査では、大多数のウクライナ国民がロシアのウクライナ介入に反対しています。また、ドンバス地域がウクライナの一部として残ることを支持する人が多数を占めています。

紛争の位置づけ

ドンバスにおける紛争は、当初はロシアが支援する分離主義勢力とウクライナ政府の間の紛争とみなされていましたが、後にロシアの関与が拡大し、ロシアとウクライナ間のハイブリッド戦争とみなされるようになりました。国際的な武力紛争として認識されるようになり、その性質は時間とともに変化しています。

まとめ

ドンバス戦争は、ウクライナの政治情勢、ロシアの関与、そして国際的な緊張という複雑な要因が絡み合って発生した武力紛争です。この紛争は、多くの死傷者を出し、人道的な危機を引き起こしました。停戦合意は何度も試みられましたが、完全な終結には至っていません。2022年2月にはロシアによるウクライナへの侵攻が始まり、紛争は新たな局面を迎えています。

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