ルチア・ポップ

スロバキアに生まれ、オーストリアを中心に国際的なキャリアを築いた著名なソプラノ歌手、ルチア・ポップ（本名：ルチア・ポッポヴァー）は、1939年 11月12日にこの世に生を受け、1993年 11月16日に54歳でその生涯を終えました。

キャリアの始まりと発展

当初、ブラチスラヴァ・アカデミーで演劇を専攻していましたが、在学中に受けた声楽のレッスンがきっかけで歌の道を志すようになります。1963年、ブラチスラヴァ歌劇場においてモーツァルトのオペラ『魔笛』で夜の女王役を務め、プロのオペラ歌手として第一歩を踏み出しました。同年には、ウィーン国立歌劇場との契約を獲得。翌1964年には、オットー・クレンペラー指揮による同じく『魔笛』の夜の女王役でレコーディングデビューを飾り、国際的な注目を集めることとなります。キャリア初期はコロラトゥーラ・ソプラノとして、その後は表現の幅を広げリリック・ソプラノとして、世界の主要な歌劇場で活躍しました。

歌唱スタイルとレパートリー

ルチア・ポップの歌声は、艶やかでありながらも深みと響きを兼ね備え、その品格あふれる表現力は多くの聴衆や批評家から高く評価されました。キャリアを重ねるにつれて、その表現には陰影が増し、より機微に富んだ情感あふれる歌唱を聴かせるようになります。オペラの分野では、モーツァルト作品が特に得意であり、またヨハン・シュトラウス2世のオペレッタ『こうもり』でも評価を得ています。リート歌手としても優れた才能を発揮し、マーラー、リヒャルト・シュトラウス、プフィッツナー、ベルクといった20世紀初頭のドイツ・リート作品を中心に、多数の優れた録音を残しました。

オーストリア人の母親を持つため、彼女はドイツ語をほぼ母語のように話し、その卓越した語学力も相まって、歌曲を含め、ドイツ語圏のレパートリーを終始活動の中心に据えました。1970年代から1980年代にかけて、彼女は同じく著名なドイツ系ソプラノ歌手グンドゥラ・ヤノヴィッツと並び称される、ドイツ・ソプラノ界を代表する存在でした。

映像と晩年

その美貌も広く知られており、多くのオペラ映像作品が現在も鑑賞できます。1970年代前後に制作された『小鳥売り』や『フィデリオ』（マルツェリーネ役）、『皇帝と船大工』、そして1980年代前後の『ばらの騎士』、『こうもり』、『売られた花嫁』（ドイツ語版）、『魔笛』（パミーナ役）、『フィガロの結婚』（スザンナ役）などが代表的な映像作品として挙げられます。日本での来日公演の様子もテレビ放映され、特に『アラベラ』などは評判を呼びました。

惜しまれつつも、ルチア・ポップは1993年にミュンヘンで脳腫瘍のため、わずか54歳という若さでこの世を去りました。

主な録音

彼女は生涯にわたり数多くの録音を残しましたが、代表的なものを以下に一部挙げます。

モーツァルト：『フィガロの結婚』（スザンナ役）、ショルティ指揮（デッカ）
モーツァルト：『フィガロの結婚』（伯爵夫人役）、マリナー指揮（フィリップス）
モーツァルト：『ドン・ジョヴァンニ』（ツェルリーナ役）、ショルティ指揮（デッカ）
モーツァルト：『魔笛』（夜の女王役）、クレンペラー指揮（EMI）
モーツァルト：『魔笛』（パミーナ役）、ハイティンク指揮（EMI）
モーツァルト：『後宮からの逃走』（コンスタンツェ役）、クリップス指揮（EMI）
モーツァルト：『皇帝ティートの慈悲』、アーノンクール指揮（フィリップス）
R.シュトラウス：『ばらの騎士』（ゾフィー役）、バーンスタイン指揮（ソニー）
R.シュトラウス：『ダフネ』（ダフネ役）、ハイティンク指揮（EMI）
ヨハン・シュトラウス2世：『こうもり』（アデーレ役）、C.クライバー指揮（DG）
ヨハン・シュトラウス2世：『こうもり』（ロザリンデ役）、ドミンゴ指揮（EMI）
ベートーヴェン：『フィデリオ』（マルツェリーネ役）、バーンスタイン指揮（DG）
フンパーディンク：『ヘンゼルとグレーテル』（グレーテル役）、ショルティ指揮（デッカ）
ヤナーチェク：『利口な女狐の物語』（女狐役）、マッケラス指揮（デッカ）
ドニゼッティ：『愛の妙薬』（アディーナ役）、ワルベルク指揮（RCA）
ドニゼッティ：『ドン・パスクワーレ』（ノリーナ役）、ワルベルク指揮（RCA）
『ドイツ童謡・子守歌集』 (Die schoensten deutschen Kinder -und Wiegenlieder)、1983年（オルフェオ）

彼女の残した豊かな芸術は、今なお多くの人々に愛されています。

[参考資料]

Lucia Popp - Find a Grave（英語）
* Lucia Popp (Soprano) - Bach Cantatas Website

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