ルッジェーロ・ライモンディ

ルッジェーロ・ライモンディ（Ruggero Raimondi）

イタリア出身の著名なバス・バリトン歌手、ルッジェーロ・ライモンディは1941年10月3日にボローニャで誕生しました。彼の音楽の道は比較的早く始まり、16歳になる頃にはミラノのヴェルディ音楽院で学び始めました。そこでマリア・テレーザ・ペディコーニやアルマンデ・ピエールヴェナンツィといった指導者から声楽の指導を受け、将来のキャリアに向けた基礎を築きました。

プロフェッショナルとしてのキャリアは、1964年にスポレートで開催された声楽コンクールでの優勝をきっかけに本格化します。同年、彼はプッチーニ作曲のオペラ『ラ・ボエーム』のコッリーネ役でオペラデビューを果たしました。この成功を足がかりに、ライモンディはイタリア国内の主要な歌劇場で経験を積み重ねていきました。特にミラノのスカラ座には、1968年にプッチーニのオペラ『トゥーランドット』におけるティムール役で初めて登場し、その後の輝かしい活動の場の一つとなります。

イタリア国内での評価を確立した後、ライモンディは国際的な舞台へと活躍の場を広げていきます。1969年にはウィーン国立歌劇場でヴェルディのオペラ『シモン・ボッカネグラ』に出演し、オーストリアの聴衆を魅了しました。翌1970年にはニューヨークのメトロポリタン歌劇場にヴェルディの『エルナーニ』でデビュー。1972年にはロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスに再び『シモン・ボッカネグラ』で登場し、さらに1975年にはパリ・オペラ座でヴェルディの『シチリアの晩鐘』を歌うなど、世界の主要な歌劇場で次々と成功を収め、国際的な名声を不動のものとしました。

日本にも度々訪れており、日本のオペラファンにもその歌声を披露しています。初めての来日は1971年の第6次NHKイタリア歌劇団公演で、ヴェルディの『リゴレット』とドニゼッティの『ラ・ファヴォリータ』に出演しました。その後も、ウィーン国立歌劇場、ボローニャ市立劇場、フィレンツェ五月音楽祭といった著名な海外歌劇場の来日公演に同行して歌った他、日本のオペラ団体である藤原歌劇団の公演（グノー『ファウスト』）や、新国立劇場での公演（マスネ『ドン・キショット』）でも主役を務めるなど、日本のオペラシーンにおいても重要な足跡を残しています。

ライモンディのレパートリーは非常に広範であることで知られています。彼はヴェルディ、プッチーニ、ロッシーニといったイタリアオペラの主要なバス役をほぼ全て網羅していると言われます。さらに、フランスオペラやロシアオペラにも積極的に取り組み、ムソルグスキーの『ボリス・ゴドゥノフ』のタイトルロールを原語で歌うなど、言語にも長けています。特筆すべきは、バス歌手としての活動に加え、バリトンの役柄も数多く演じている点です。プッチーニの『トスカ』の悪役スカルピア男爵や、ヴェルディの『ファルスタッフ』のタイトルロール、同じくヴェルディの『オテロ』の狡猾なイヤーゴ、ビゼーの『カルメン』の闘牛士エスカミーリョなど、声域的に難易度の高いバリトン役も見事に歌いこなしました。

その声質は、バス歌手の中では比較的軽やかであると評されます。深く重厚な「バッソ・プロフォンド」とは異なり、より柔軟性のある響きを持っています。この声質が、バス役だけでなく、バリトン役をもこなせる彼の多才さを支えています。声質の対比を示す例として、ロッシーニのオペラ『ランスへの旅』における彼の役柄、ドン・プロフォンドがしばしば挙げられます。この役は、同じ作品で他のバス歌手が歌う、より深みのある声が求められるシドニー卿などと比較すると、ライモンディの軽やかで表現力豊かなバスに適していると言えるでしょう。

ルッジェーロ・ライモンディは、その国際的なキャリア、イタリアオペラを中心にしつつも多岐にわたるレパートリー、そしてバスとバリトンの両方を歌いこなす稀有な才能、個性的な声質によって、20世紀後半を代表するオペラ歌手の一人として、今なお多くの人々に記憶されています。

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