ファルスタッフ

『ファルスタッフ』（Falstaff）は、ジュゼッペ・ヴェルディが作曲し、アッリーゴ・ボーイトが台本を執筆した3幕構成のオペラ・コメディア・リリカです。ウィリアム・シェイクスピアの喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』を原作としています。

概要

『ファルスタッフ』は、ヴェルディが80代目前に完成させた最後のオペラであり、彼の26作のオペラの中でわずか2作しかない喜劇作品の一つです（もう一つは初期の『一日だけの王様』ですが、今日ではほとんど上演されません）。19世紀半ば以降に書かれたイタリア・オペラで、今日でも上演される喜劇は、プッチーニの『ジャンニ・スキッキ』程度しかありません。シェイクスピア劇を題材にしたヴェルディのオペラとしては、『マクベス』『オテロ』に続く3作目です。

同じ原作によるオペラには、ディッタースドルフの『ウィンザーの陽気な女房たち』、サリエリの『ファルスタッフ』、バルフの『ファルスタッフ』、アダンの『ファルスタッフ』などがありますが、中でもオットー・ニコライが作曲したドイツ・オペラ『ウィンザーの陽気な女房たち』は、序曲が有名です。しかし、歌劇全体の上演機会はヴェルディの作品に比べて少ないのが現状です。

1893年2月9日、ミラノのスカラ座で初演され、大成功を収めました。『アイーダ』や『オテロ』のような爆発的な人気は得られなかったものの、その芸術性と音楽的創造性が高く評価されました。

登場人物

ジョン・ファルスタッフ: 太った老騎士
フォード: 金持ちの市民
アリーチェ・フォード: フォードの妻
メグ・ペイジ: フォード夫人の友人
ナンネッタ: フォード夫妻の娘
フェントン: ナンネッタの恋人
クイックリー夫人: フォード家の女中
バルドルフォ: ファルスタッフの従者
ピストーラ: ファルスタッフの従者
ドクター・カイウス: ナンネッタの求婚者

あらすじ

第1幕

14世紀初頭のイングランド、ウィンザーが舞台。ガーター亭の一室で、ファルスタッフは従者たちと酒を飲んでいます。ドクター・カイウスが、ファルスタッフの従者が強盗を働いたと非難しにやってきます。その後、ファルスタッフはフォード夫人とペイジ夫人に宛てて恋文を書かせ、従者に届けさせようとしますが、従者たちは拒否します。彼は近習に手紙を託し、従者たちを追い払います。

場面は変わり、フォードの庭。アリーチェとメグは、それぞれファルスタッフからの恋文を受け取ります。二人は手紙を交換し、クイックリー夫人と共に、ファルスタッフを懲らしめる計画を立てます。一方、フォードは従者から手紙の事を聞かされ、嫉妬心と復讐心に燃えます。フェントンとナンネッタの短い愛の二重唱の後、女性たちは家に帰り、ファルスタッフを密会に誘います。男性たちも登場し、フォードは変名を使ってファルスタッフに紹介されることになります。

第2幕

第1幕と同じ部屋。フォードに雇われたバルドルフォとピストーラは、クイックリー夫人にフォードの到着を告げます。フォードはシニョール・フォンタナと名乗り、ファルスタッフとフォード夫人の仲を取り持つための金を要求します。ファルスタッフは喜んで応じますが、その間フォードは嫉妬に苦しみます。

場面が変わり、フォードの家。クイックリー夫人がファルスタッフの来訪を告げると、フォード夫人は洗濯籠を用意します。ファルスタッフが女性を誘惑しようとした時、ペイジ夫人が来たという知らせが入り、ファルスタッフは衝立の後ろに隠れます。怒ったフォードが帰ってきてファルスタッフを捕まえようとしますが、彼は洗濯籠の中に隠れます。その間、衝立の向こうではフェントンとナンネッタの恋愛の場面が繰り広げられ、フォードらに見つかってしまいます。ファルスタッフは洗濯籠ごとドブに放り込まれ、嘲笑されます。

第3幕

宿屋の前で、ファルスタッフは落ち込んでいましたが、ワインを飲んで元気を取り戻します。彼はクイックリー夫人に再び誘われ、ハーンの樫の木で密会することを約束します。男性たちは彼を懲らしめる計略を立てます。ドクター・カイウスはナンネッタの変装を聞き、その計略はクイックリー夫人に知られていました。

場面は変わり、ウィンザー公園の樫の木。月明かりの下、女性たちはフェントンを修道士に変装させ、ドクター・カイウスの計画を邪魔させます。ファルスタッフの愛の場面は魔女たちの知らせで中断し、エルフや妖精に変装した男たちがファルスタッフを打ちのめします。全てが終わると、ドクター・カイウスはナンネッタと間違えてバルドルフォを捕まえていたことに気づき、フェントンとナンネッタは結婚します。ファルスタッフは、自分がただの道化ではなかったと悟り、「世の中全て冗談だ」と高らかに歌います。

有名なアリア

「名誉だと！泥棒めが！」(L'onore! Ladri!) - ファルスタッフ、第1幕第1場
「これは夢か？まことか？」(È sogno? o realtà) - フォード、第2幕第1場
「行け、老練なジョン」(Va, vecchio John) - ファルスタッフ、第2幕第1場
「私が昔ノーフォーク公爵の」(Quand'ero paggio del Duca di Norfolk) - ファルスタッフ、第2幕第2場
「喜びの歌はいとしい人の唇から出て」(Dal labbro il canto estasiato vola) - フェントン、第3幕第2場
「季節風の息にのって」(Sul fil d'un soffio etesio) - ナンネッタ、第3幕第2場

楽器編成

ヴェルディが『ファルスタッフ』で使用した楽器は、3管編成です。

フルート3（うち1人はピッコロ持ち替え）
オーボエ2
イングリッシュホルン
クラリネット2
バスクラリネット
バスーン2
ホルン4
トランペット3
トロンボーン3
バストロンボーン
ティンパニ
打楽器（トライアングル、シンバル、大太鼓）
ハープ
弦5部

その他、ギター、ナチュラルホルン、鐘などが舞台裏から聞こえるよう指示されています。

演奏時間

約2時間（各幕は15分、15分、25分、20分、15分、30分程度ですが、通常は第2幕第2場の前に休憩を設けます）。

脚注

参考文献 The Opera Goer's Complete Guide by Leo Melitz, 1921 version.