ルディ・ヴァリー

ルディ・ヴァリー（1901年7月28日 - 1986年7月3日）は、20世紀アメリカの大衆文化において、歌手、俳優、バンドリーダーとして多岐にわたる才能を発揮し、特にラジオや録音メディアの黎明期に新しい時代のスター像を確立した人物です。

メイン州ウェストブルックで育ち、フランス系カナダからの移民の孫にあたります。少年時代、15歳で第一次世界大戦への従軍を志願しましたが、若すぎるため海軍への入隊は叶いませんでした。

高校での音楽活動を皮切りに、ニューイングランド地方でクラリネットやサクソフォーン奏者として経験を積みました。1920年代半ば、ロンドンのサヴォイ・ホテルで演奏中に歌手への転向を勧められ、帰国。メイン大学を経てイェール大学で哲学を学ぶ傍ら、音楽の道を深めました。

大学卒業後、自身のバンド「ルディ・ヴァリー・アンド・ザ・コネチカット・ヤンキーズ」を結成し、ボーカルを務めました。「ルディ」という芸名は、著名なサクソフォーン奏者ルディ・ヴィードーフにちなんでいます。彼はステージでメガホンを使用し、甘く繊細なテナーボイスと柔和な雰囲気、端正な容姿で、特に若い女性たちの熱狂的な支持を得ました。

1928年にレコードデビューし、ラジオにも進出。マイクロフォン普及期にあたるこの時代、ヴァリーはマイクを活かしたソフトで囁くような「クルーナー」と呼ばれる歌唱スタイルで大きな成功を収めました。これは従来の力強い歌唱法とは対照的であり、ビング・クロスビーやフランク・シナトラらに影響を与え、ヴァリーはマイクロフォン時代の最初のポップスターと見なされるようになりました。

1930年代にはラジオスターとしての地位を確立し、多数の冠番組を持ちました。1937年には、アフリカ系アメリカ人のジャズミュージシャン、ルイ・アームストロングを番組の代理司会者に起用。これは当時の社会において、黒人アーティストが主要な役割を担う画期的な出来事でした。

音楽活動と並行して、ヴァリーは映画俳優としても活躍しました。1940年代にはプレストン・スタージェス監督作品の常連となり、『パームビーチ・ストーリー』などで重要な役を演じました。その後も数多くの映画に出演し、印象を残しています。

1961年にはブロードウェイミュージカル『努力しないで出世する方法』に出演し、1967年の映画版でも同役を再演しました。テレビ時代には、様々なドラマシリーズにゲスト出演し、『怪鳥人間バットマン』で悪役を演じるなど、晩年までエンターテイナーとして活動を続けました。

ヴァリーは生涯に4度結婚し、最後の妻エレノア・ノリスとは37年間連れ添いました。彼の人物像については、短気な一面もあったという証言がある一方、仕事に対する真剣さゆえと擁護する声もあります。

1986年7月3日、ルディ・ヴァリーはロサンゼルスの自宅で、癌のため84歳で亡くなりました。最期の瞬間は、テレビで自由の女神像修復記念式典を見ていたといいます。妻エレノアが伝える最期の言葉は「あそこに行けたらよかったなあ。私がどれだけパーティーが好きか、あなたも知っているだろう」というものでした。遺体はメイン州ウェストブルックの墓地に埋葬されています。

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