ルノー・サフラン

ルノー・サフラン（Renault Safrane）は、フランスの自動車メーカーであるルノーがかつて製造・販売した大型の乗用車です。1992年に初代が登場し、1998年に一度その名前のモデルは途絶えましたが、2008年からはルノー傘下の韓国メーカー、ルノーサムスンが生産するモデルをベースとして、主に中東市場向けに「サフラン」の名を冠する車種が展開されました。世代によって開発・製造背景が大きく異なる特徴を持ちます。

初代 (1992年 - 1998年)

初代サフランは、ルノーの当時のフラッグシップモデルであったルノー25の後継車種として開発されました。1991年のジュネーヴモーターショーで初めて公開され、翌1992年から販売が開始されました。全長は4,700mmを超え、日本の自動車税制でいうところの3ナンバー枠に収まるサイズ感でしたが、ルノー25のコンセプトを受け継ぐ、フランス車らしい流麗なハッチバックボディを持つ前輪駆動（FF）車でした。

パワートレインの配置において、ルノー25とは異なり、エンジンは全て一般的な横置きレイアウトが採用されています。サスペンション形式は、フロントにストラット式、リアにはマルチリンク式が奢られました。この初代モデルのデザインは、後にBMW・Z3など国際的に活躍する日本人デザイナー、永島譲二氏が手掛けたものです。発表当初、そのスタイリングが「これまでのルノーのイメージと違う」「フランス車らしくない」といった批判的な声も一部にはありましたが、市場での販売実績はまずまず良好で、当時のフランス大統領公用車としても採用されるなど、一定の成功を収めました。

搭載されたエンジンは多岐にわたり、最高級グレードにはボア径φ93.0mm、ストローク73.0mmのV型6気筒2,975ccエンジンが設定され、これは最高出力170PSを5,500rpmで、最大トルク24.5kgmを4,500rpmで発生しました。その他にも、直列4気筒2,000cc8バルブ（107PS）、直列4気筒2,200cc8バルブ（110PS）、直列4気筒2,000cc12バルブ（140PS）、直列4気筒2,200cc12バルブ（140PS）、そして直列4気筒2,100cc8バルブターボディーゼル（90PS）といった幅広い選択肢が用意されていました。

1994年には、ドイツのチューナーであるハルトゲとの協業による高性能モデル「Biturbo」が登場しました。これはV型6気筒3.0Lエンジンにツインターボチャージャーを装着し、最高出力を280馬力にまで高めるとともに、駆動方式を四輪駆動としたスペシャルモデルです。また、上質な本革シートや専用設計のスーツケース、四輪にエアサスペンションを備えた豪華仕様「バカラ」も設定され、名実ともにフランスを代表する高級サルーンとしての地位を確立しました。

1996年にはマイナーチェンジが行われ、エンジンのラインナップが一新されました。この時期には、直列4気筒1,900cc16バルブ（140PS）、直列5気筒2,500cc20バルブ（170PS）、V型6気筒2,900cc24バルブ（192PS）、そして直列4気筒2,200cc12バルブターボディーゼル（115馬力）といったエンジンが搭載されています。

初代サフランは1998年に生産を終了しました。その事実上の後継車種としては、2001年に発表されたヴェルサティスが挙げられます。

日本市場へは、主にV6エンジンを搭載した「バカラ」や「RXE」といったグレードが、当時のインポーターであるフランス・モーターズ（ヤナセ系列）を通じて輸入されました。しかし、車両本体価格が500万円を超える高額であったため、輸入台数は極めて少数にとどまりました。

2代目 (2008年 - 2010年)

2008年8月、ルノー傘下の韓国企業ルノーサムスンが、自社の上級セダンであるSM5をベース車両として、中東地域への輸出モデルに「サフラン」の車名を与えて販売を開始しました。この2代目サフランは、日産自動車のJ31型ティアナをベースとしたSM5が元となっており、初代サフランとは名称以外にボディ構造、プラットフォーム、主要なメカニズムなど、車両としての直接的な関連性は一切ありませんでした。ルノーサムスンSM5との差異は、主にエンブレムやコーポレートアイデンティティを示すマーク類に限られていました。

搭載されたエンジンは、日産のMR20DE型エンジンをベースとしたM4Rと呼ばれる直列4気筒2,000cc16バルブユニットで、最高出力は143PSでした。この2代目サフランは、ベース車両であるSM5のモデルチェンジに伴い、2010年に生産を終了しました。

3代目 (2011年 - 2016年)

2代目サフランの後継モデルとしては、ルノーサムスンが製造する3代目SM5のルノーブランド版である「ラティテュード」が充当されました。この3代目も、販売地域は2代目と同様、主に中東地域に限定されています。車両自体のメカニズムや外観デザインは、ベースとなるラティテュードと全く同じでした。生産は2代目と同様に、ルノーサムスン釜山工場で行われました。2016年まで生産・販売が続けられ、その後継車種となるタリスマンにその役目を引き継ぎました。

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