ルフトハンザドイツ航空592便ハイジャック事件

ルフトハンザドイツ航空592便ハイジャック事件：大西洋を越えた亡命の代償

1993年2月11日、ルフトハンザドイツ航空592便が、一人の男によって劇的なハイジャックに見舞われました。フランクフルトからカイロを経由し、エチオピアのアディスアベバへ向かうはずだった同便は、亡命を求める男の要求により、ニューヨークへと針路を変えることになります。

事件の概要

犯人はエチオピア出身の男で、アメリカへの亡命を強く望んでいました。彼は銃を所持し、パイロットを脅迫してジョン・F・ケネディ国際空港へ向かうよう指示。幸いにも592便は無事に着陸し、犯人も投降したため、犠牲者は一人も出ませんでした。しかし、この事件は国際社会に大きな衝撃を与え、航空保安に対する意識を改めて高めるきっかけとなりました。

事件当日

592便は、エアバスA310-304型機（機体記号D-AIDM）で運航されていました。乗員10名、乗客94名の計104名を乗せ、フランクフルトを出発。カイロを経由し、アディスアベバを目指す予定でした。しかし、離陸からわずか35分後、事件は発生します。

犯人の背景

犯人の男は、1972年にエジプトで生まれました。彼の父親はエチオピアの政治犯であり、一家は迫害を逃れるためにモロッコへ移住。彼はモロッコのアメリカンスクールで学びましたが、アメリカへの留学ビザは却下され、合法的な入国手段を失っていました。事件の半年前、彼はドイツへ亡命を申請しましたが、これもまた却下。帰国のために592便の航空券を購入させられたことが、事件の引き金になったとも言われています。

事件の経緯

犯人は、空砲を装填したスターターピストルを帽子の中に隠し、フランクフルト空港の保安検査を通過しました。当時はアメリカ同時多発テロ事件以前であり、検査体制も現在ほど厳重ではありませんでした。離陸後、彼はコックピットに侵入し、パイロットに銃を突きつけてニューヨークへの飛行を要求。燃料補給のため、ハノーファー空港に一時着陸することを許可しました。ハノーファーでは、人質を殺害すると脅迫し、アメリカ到着後の平和的な投降を約束させた上で、再び出発。

ニューヨークまでの飛行中、パイロットは犯人と親密な関係を築き、彼の心を落ち着かせようと努めました。そして、ジョン・F・ケネディ国際空港に到着後、70分に及ぶ交渉の末、犯人は銃と引き換えにパイロットのサングラスを受け取り、穏やかに投降しました。

事件後

犯人はハイジャック容疑で有罪判決を受け、懲役20年の刑に処されました。事件後、フランクフルト空港の警備体制の甘さが厳しく批判され、保安対策が見直されることになりました。また、この事件は、大西洋上でのハイジャック事件として、過去の事件と並んで語られることとなり、航空保安の重要性を改めて認識させる出来事となりました。

関連項目

航空機ハイジャック事件の一覧
ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件

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