ルンペンプロレタリアート

ルンペンプロレタリアートとは

ルンペンプロレタリアート（独: Lumpenproletariat）は、カール・マルクスが用いた用語で、プロレタリアート（労働者階級）の中でも、階級意識を持たず、社会的に有益な生産活動を行わず、階級闘争の役にも立たない、さらには無階級社会の実現を阻害する層を指します。略して「ルンプロ」とも呼ばれます。

この言葉は、「ぼろ、浮浪者、悪漢」などを意味する「ルンペン」（独: lumpen）と、労働者階級を意味する「プロレタリアート」（独: proletariat）を組み合わせたものです。

マルクスにおける評価

マルクスは、著書『共産党宣言』（1848年）や『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』（1852年）で、無産階級や労働者階級の中でも、革命への意欲を失った極貧層を「ルンペンプロレタリアート」と定義しました。特に『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』では、ルイ・ボナパルト（後のナポレオン3世）の支持組織「12月10日会」の背景を説明する中で、ルンペンプロレタリアートの「職業」について言及しています。

しかし、マルクスのルンペンプロレタリアートの定義は一定していません。当初は「最下層の腐敗物」と位置づけ、ジプシーをその典型として想定していました。ジプシーは、芸能や占いなど、マルクスが嫌悪する仕事で収入を得る者が多かったためです。

その後、マルクスはルンペンプロレタリアートの範囲を拡張し、『フランスにおける階級闘争』（1850年）では、最富裕層である金融ブルジョワジーを「ブルジョワジーの上層に再生したルンペン・プロレタリアート」と定義しました。これは、「生産活動を行わず、他人の富を不正に得て富裕になる」という理由からです。また、『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』では、ルンペンプロレタリアートを「あらゆる階級のクズ、ゴミ、カス」と表現しています。

最終的に、マルクスはルンペンプロレタリアートを「政治的に変節しやすい」「犯罪に走りやすい」という基準で判断するようになりました。彼らは『共産党宣言』で「信用ならない」「反革命の温床になる」と位置づけられ、共産主義運動から排除されました。

この背景には、ルイ・ボナパルトのクーデターによってフランス第二共和政が崩壊したことに対するマルクスの憤りがあります。ルイ・ボナパルトの支持者には、マルクスが「ルンペンプロレタリアート」とみなす人々が多く含まれており、マルクスはフランス第二帝政をルンペンプロレタリアートによって支えられた体制として捉えていました。

マルクスらは、プロレタリアートのみが真に革命的な階級であり、その他の階級（小工業者、小商人、手工業者、農民、ルンペンプロレタリアート）は衰退すると見下していました。思想史研究者の太田仁樹によれば、マルクスらはプロレタリアートを歴史の進歩を体現する主体と見なし、自身を特権的なプロレタリアートと一体化させることで、左翼党派政治における特権的な地位を正当化しようとしていたと指摘しています。

バクーニンにおける評価

マルクスとは対照的に、ルンペンプロレタリアートを革命の基盤として評価したのは、ミハイル・バクーニンです。バクーニンは、ルンペンプロレタリアートを貧困に苦しむ「下層の人々」であり、「ブルジョワ文明による汚染をほとんど受けていない」ため、「社会革命の火蓋を切り、勝利へと導く」存在だと捉えました。

日本の左翼運動とルンペンプロレタリアート

日本の新左翼の中には、窮民革命論のように、ルンペンプロレタリアートと連携する思想や動きも見られます。例えば、革命的労働者協会（解放派）の拠点労組には、東京（山谷）、沖縄、大阪（釜ヶ崎）、福岡の日雇労働者組合が含まれています。

参考文献

横張誠『芸術と策謀のパリナポレオン三世時代の怪しい男たち』講談社、1999年。ISBN 978-4062581509。

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