ルーシ (地名)

ルーシ（Роусь, Русь）

ルーシは中世の東欧に存在した地域名であり、主に現在のウクライナに相当するドニプロ川の中流域に位置していました。この地域は、キエフ、チェルニーヒウ、ペレヤスラウ＝フメリニツキーの三角地帯によって形成されています。文献では「ルーシの地」として記載され、9世紀から13世紀にかけてキエフ大公国の中心として重要な役割を果たしていました。この名称は、最初は政治的な意味合いを持ちましたが、時代と共に地理的な概念への変容が見られました。特に、キエフ大公国の分裂後、この地名は様々な国や地域の統治者に雅号として採用され、さらに後のロシアやウクライナ、ベラルーシの名称にも影響を与えました。

語源

ルーシという言葉の起源については、主に二つの説があります。一つは、北欧のヴァイキング、つまりルーシ族に由来するというものです。もう一つは、ドニプロ川中流域に暮らす人々自身の呼称に基づくという説です。前者の説は西欧や米国、日本の研究において一般的であり、後者は東欧の研究者の間で支持されています。また、フィンランド語やエストニア語ではスウェーデンに「ルーシ」という言葉が使われており、これも関係しています。

「ルーシの地」

「ルーシの地」という表現は、911年に結ばれたルーシ・ビザンツ条約の中で初めて登場しました。この用語は、ギリシャの地域と対比されており、政治的共同体を指すものでした。ロシアの歴史学者A・ナソノフによると、「ルーシの地」は9世紀にハザール帝国に属した東スラヴ人によって形成され、その後、ヴァイキングの大公朝が成立し、キエフ大公国が立ち上がったことで、政治・経済・文化の核となっていったとされています。11世紀後半には、広大な領土を持つ大公国の分裂に伴い、「ルーシの地」の持つ政治的な役割は低下していきます。その後、この用語は地理的な意味合いを帯び、特にキエフ公国、チェルニーヒウ公国、ペレヤスラウ公国が指されることが増えていきました。

研究史

「ルーシ」の範囲を明確にするために、多くの史料が取り上げられています。『ルーシ年代記』や『イーホル軍記』などがその代表であり、これに対して異なる解釈を示す研究者もいました。ソ連の歴史学者M・チホミロフは、広義のルーシと狭義のルーシを区別しており、前者はキエフ大公国が支配した全域を指し、後者はその中心地域を指すとしています。これに続いてB・ルィバコフなどの研究も進められ、より詳細な地理的議論が展開されました。

由来した言葉

ルーシという地名に派生する語には、いくつかの国名や地域名があります。例えば、ルーシヤ（Русія）やルテニア（Ruthenia）などがあり、これらはそれぞれ関連する文化や歴史的な影響を反映しています。また、ロシアという言葉もルーシから派生した名称であり、歴史的に重要な意味を持つものです。

このようにルーシの地名やその歴史は、中央・東欧地域において深い影響を及ぼし、現代に至るまでその痕跡を残しています。

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