カール・メンガー

カール・メンガー：オーストリア学派の創始者

カール・メンガー（Carl Menger, 1840年2月23日 - 1921年2月26日）は、オーストリアの経済学者であり、経済学におけるオーストリア学派の創始者として知られています。彼は、ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ、レオン・ワルラスらと共に、限界効用理論を提唱し、近代経済学の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと初期のキャリア

メンガーは、現在のポーランドに位置するノヴィ・ソンチで、弁護士の息子として生まれました。彼は、ギムナジウムを卒業後、プラハ大学とウィーン[[大学]]で法律を学び、後にクラクフ大学で博士号を取得しました。大学を離れた後、メンガーはレンベルク新聞社とウィーン新聞社で経済ニュース記者として働き、その過程で、古典派経済学の価格決定理論と実際の市場の動きとの間に矛盾があることに気づきました。この経験が、彼の経済学研究の動機となりました。

経済学への転身とオーストリア学派の誕生

1867年、メンガーは経済学の研究を本格的に開始し、1871年に『国民経済学原理』を出版しました。この著書で、彼は限界効用理論を提唱し、経済学におけるオーストリア学派の基礎を築きました。しかし、出版当初はほとんど注目されませんでしたが、後に新古典主義革命に貢献したことで高い評価を得るようになりました。1872年には、ウィーン[[大学]]法学部の私講師として招かれ、その後、財政学と経済学の講義を担当しました。1873年には、33歳という若さで経済理論の員外教授に就任し、その講義は多くの学生を集めました。

皇太子ルドルフとの関係

1876年、メンガーはオーストリア皇太子ルドルフ大公の経済学と統計学の家庭教師となり、皇太子のヨーロッパ旅行に2年間同行しました。また、皇太子が1878年に匿名で出版した、オーストリア上流貴族社会を批判した文書の執筆にも関与したとされています。メンガーと皇太子の関係は、1889年に皇太子が自殺するまで続きました。

オーストリア学派と方法論争

1878年、メンガーはウィーン[[大学]]の経済学正教授に任命され、その地位を利用して、自身の理論と手法を発展させました。1883年には、『社会科学、特に経済学の方法に関する研究』を出版し、この著書がきっかけで、歴史学派との間に激しい論争が勃発しました。歴史学派の経済学者たちは、メンガーの理論を批判し、「オーストリア学派」と嘲笑しました。これに対し、メンガーは『ドイツ国民経済学における歴史主義の誤り』で反論し、方法論争が始まりました。この間、メンガーは、オイゲン・フォン・ベーム＝バヴェルクやフリードリヒ・フォン・ヴィーザーなど、自身の理論を支持する多くの研究者たちを育成しました。

後期の研究と業績

1880年代末、メンガーはオーストリアの通貨制度改革委員会の委員長に任命され、その後10年間で、『資本論』や『貨幣論』などの貨幣理論に関する多くの論文を発表しました。彼は、ドイツのアカデミズムへの失望から、1903年に教授職を辞任し、研究に専念しました。1921年に死去。

限界効用理論

メンガーの最も重要な貢献の一つは、限界効用理論の提唱です。この理論は、財の価値は、その財が追加されることによって得られる効用、すなわち限界効用によって決定されると主張します。彼は、人間が財を使用する際に、まず最も優先順位の高い目的に割り振り、財が失われた場合には、最も優先順位の低い目的が犠牲になるという考えを示しました。この考え方は、財のパラドックス、例えば水が豊富にあるにもかかわらずダイヤモンドが高価である理由を説明するのに役立ちました。メンガーは、財の価値は、個人の主観的な評価によって決まると考え、これは経済学における主観主義の重要な一歩となりました。

生産段階の概念

メンガーはまた、生産に必要な時間を考慮し、財を最終消費財である第一次財と、それらを生産するために使用される第二次財以降の高次財に分けました。この概念は、後にベーム・バヴェルクらによって発展し、生産の各段階における時間と貢献度に応じて、利子がどのように発生するかを説明する上で重要な役割を果たしました。

貨幣の起源

メンガーは、貨幣の起源についても考察しました。彼は、直接交換には、交換相手が自分の欲しいものを必ずしも持っているとは限らないという問題があることを指摘しました。彼は、販売可能性という概念を導入し、人々が自分の製品を、より販売しやすい商品に交換する傾向があると考えました。そして、携帯性、分割可能性、希少性、耐久性などの特性を備えた貴金属が、貨幣として一般的に使用されるようになったと説明しました。この理論は、貨幣の起源を、歴史的な出来事ではなく、一般的な人間行動の論理的な帰結として捉えるものでした。

メンガーの遺産

メンガーの理論は、オーストリア学派の経済学者たちによって受け継がれ、発展しました。特に、ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスの『貨幣及び流通手段の理論』は、貨幣を限界効用と結びつける上で重要な役割を果たしました。
メンガーの蔵書約2万冊は、第一次世界大戦後に日本の東京商科大学（現在の一橋[[大学]]）によって購入され、「メンガー文庫」として公開されています。このコレクションは、彼の思想や研究を理解する上で貴重な資料となっています。

主要な著作

1871年 - 『国民経済学原理』 (Grundsätze der Volkswirthschaftslehre)
1883年 - 『社会科学、特に経済学の方法に関する研究』 (Untersuchungen über die Methode der Socialwissenschaften, under der politischen Ökonomie insbesondere)
1884年 - 『ドイツ国民経済学における歴史主義の誤り』 (Die Irrthümer des Historismus in der deutschen Nationalökonomie)
1892年 - 『金本位制への移行』(Der Übergang zur Goldwährung: Untersuchungen über die Wertprobleme der österreichisch-ungarischen Valutareform)
* 1892年 - 『貨幣の起源について』(On the Origins of Money)

カール・メンガーは、その革新的な理論と方法論によって、経済学の分野に大きな足跡を残しました。彼の思想は、現在でも多くの研究者によって研究され、経済学の発展に貢献し続けています。

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