ルー・グラム

ルイス・アンドリュー・グラマティコ、通称ルー・グラムは、1950年 5月2日にアメリカで生まれた著名なロック・ボーカリストです。ロックバンド「フォリナー」の核となる存在として、リードボーカルと数々の楽曲の共作を手がけ、その名を世界に知らしめました。また、ソロアーティストとしても成功を収め、多くのリスナーにその歌声を届け続けています。彼のキャリアには、「つめたいお前」、「ガール・ライク・ユー」、「アイ・ウォナ・ノウ」、「ウィズアウト・ユー」といったフォリナー時代のトップ40ヒットや、ソロでの代表曲「ミッドナイト・ブルー」など、時代を超えて愛される名曲が数多く存在します。

若き日々からフォリナー結成へ

ルー・グラムは、ニューヨーク州ロチェスターの音楽一家に生まれました。父ベニーはバンドリーダー兼トランペット奏者、母ニッキは歌手でした。彼の両親はイタリア（シチリア）にルーツを持っています。1968年に地元のゲーツ・チリ・ハイスクールを卒業後、モンロー・コミュニティ・カレッジで学びました。音楽への情熱は10代半ばから燃え上がり、ロチェスター周辺のバンド、セント・ジェームズ・インファーマリー（後にジ・インファーマリーに改名）、PHFFT、プア・ハートで活動しました。プア・ハートではハーモニー・ボーカルを担当しています。

ボーカルとドラム演奏を続ける中で、ルーはバンド「ブラック・シープ」のフロントマンを務めることになります。ブラック・シープは、クリサリス・レコードと契約した最初の米国のバンドの一つであり、1973年に最初のシングルを発表しました。ロチェスターやバッファローのナイトクラブでの演奏から始まり、徐々に知名度を上げ、キャピトル・レコードから2枚のアルバム、『ブラック・シープ登場』（1974年）と『黒い羊の群れ!』（1975年）をリリースしました。しかし、1975年のクリスマスイブにキッスの前座を務めた後、機材を積んだトラックが凍結した高速道路で横転するという事故に見舞われます。機材の多くを失ったバンドはツアーを中止せざるを得ず、ライブ活動による収入が見込めなくなった結果、解散の道を辿りました。

ブラック・シープ解散直後の1976年初頭、ロチェスターでスプーキー・トゥースとして公演していたミック・ジョーンズと出会う機会を得ます。ルーは彼にブラック・シープのファーストアルバムを渡しました。新しいバンドのリードボーカルを探していたジョーンズは、ルーの歌声に魅了され、オーディションを経て自身の新プロジェクトへ迎え入れることを決めます。これが、後にフォリナーとなるバンドの始まりでした。

フォリナーでの飛躍と成功

フォリナーに加わるにあたり、ルイス・アンドリュー・グラマティコはルー・グラムと名を改めました。バンド名も当初の「トリガー」からフォリナーに変更され、ここに史上最も成功したロックバンドの一つが誕生しました。1970年代後半から1980年代にかけて、ルー・グラムはフォリナーのリードボーカルとして、最も輝かしいキャリアを築き上げます。彼の表現力豊かで力強い歌声は高く評価され、『サーカス』誌は1978年に、その声はレッド・ツェッペリンのロバート・プラントさえも嫉妬させるだろうと評しました。ルーの類まれなボーカルスタイルは、フォリナーをビルボードの「史上最も偉大なアーティスト100」にランクインさせる要因となりました。

フォリナーの数々のヒット曲でリードボーカルを務めただけでなく、ルーは多くの楽曲をミック・ジョーンズと共に共作しました。中でも、全米で10週間連続2位を記録した「ガール・ライク・ユー」や、全米・全英などで1位を獲得した「アイ・ウォナ・キノウ」といったバラード曲は、共同作業から生まれた大ヒットです。彼らの最初の8枚のシングルがすべてビルボードのトップ20入りを果たしたことは特筆すべき記録であり、これは当時、ビートルズにしか達成できていない偉業でした。

成功を収める一方で、ルーとミックの間には音楽性の違いから衝突が生まれることもありました。特にセカンドアルバム『ダブル・ヴィジョン』以降、バンドは度重なるメンバーチェンジを経験します。ルー自身がフォリナーでの活動の最高点と評した4作目『4』は、純粋なロックサウンドを追求しましたが、ミックは当時のトレンドであったシンセサイザーを多用したバラードスタイルを志向しました。この方向性の違いから、次作『プロヴォカトゥール (煽動)』では、トレヴァー・ホーンやアレックス・サドキンといった共同プロデューサーが調整役として起用されています。

ソロ活動とバンド離脱、そして復帰

フォリナー内部の緊張が続く中、ルーは1987年に初のソロアルバム『レディ・オア・ノット』をリリースします。このアルバムは批評家から高い評価を受け、収録曲の「ミッドナイト・ブルー」は全米チャートで5位に入る大ヒットとなりました。同年公開のホラー映画『ロストボーイ』のサウンドトラックにも「Lost In The Shadows」を提供しています。その後、フォリナーはアルバム『インサイド・インフォメーション』を発表し、これもビルボードアルバムチャートで15位にランクインしました。「セイ・ユー・ウィル」（6位）、「ウィズアウト・ユー」（5位、アダルト・コンテンポラリーチャート1位）といったヒットシングルも生まれました。セカンドソロアルバム『ロング・ハード・ルック』からは、「ユー・アンド・ミー」（10位）などがヒットしています。

ソロ活動での成功を経て自信を深めたルーは、ミックとの音楽性の隔たりがますます大きくなったことから、1990年5月にフォリナーを再び離れます。『ロング・ハード・ルック』のツアーを行い、スティーヴ・ミラー・バンドのオープニングを務める傍ら、友人であり元ブラック・シープのベーシスト、ブルース・ターゴンらと共にシャドウ・キングを結成しました。1991年に発表されたセルフタイトルのアルバムは好意的なレビューを得ましたが、バンドとしてのまとまりや十分なプロモーションが不足していたため、短期間で解散に至りました。一方、ルー不在のフォリナーはジョニー・エドワーズを新ボーカルに迎えてアルバム『アンユージュアル・ヒート』をリリースしますが、前作に比べてセールスが振るいませんでした。

フォリナーのファンに広く受け入れられなかったジョニー・エドワーズに代わり、ミック・ジョーンズの働きかけにより、ルーは1992年4月にフォリナーへ復帰します。この際、ブルース・ターゴンもラインナップに加わりました。復帰後、コンピレーションアルバム『アンド・ビヨンド (ベスト・オブ)』のために3曲の新曲が録音されました。また、1992年末にリハビリを終えた頃、ルーは自らが新生キリスト教徒となったことを明かしました。「ロックンロールの生活に疲れ、充実感を感じなくなっていた。様々な悪い習慣に陥っていた自分には、十分な自制心や精神力がないと痛感し、カトリックとして新たなスタートを切りたいと思った。答えはもっと深いところにあると、ずっと知っていた」と語っています。

1994年にはアルバム『Mr.ムーンライト』をリリースしましたが、ヨーロッパでの成功とは対照的に、世界的なセールスやアメリカでの人気は以前ほど得られませんでした。収録曲「アンティル・ジ・エンド・オブ・タイム」はアダルト・コンテンポラリー・ラジオでオンエアされました。1996年には、オーストラリアの歌手ティナ・アリーナがカバーした「アイ・ウォナ・キノウ」にコーラスで参加し、この曲はヨーロッパで再び大きなヒットとなりました。

病との闘い、そして現在

1997年4月、ルーはクリスチャンロックバンド、ペトラのアルバムにゲストボーカルとして参加した直後、バンドの日本ツアーを目前にして、頭蓋咽頭腫と呼ばれる脳腫瘍と診断されました。幸い腫瘍は良性でしたが、手術によって脳下垂体に損傷を受け、その後のリハビリは彼に大きな負担をかけ、体力や歌声にも影響を与えました。病と闘いながらも、彼は1998年にはフォリナーのツアーに復帰し、ミックと共に活動を続けました。

徐々に健康と体力を回復させたルーでしたが、2003年に再びフォリナーを脱退します。その後、自身の兄弟であるベン（ドラム）とリチャード（ベース）、友人であるドン・マンキューソ（ギター）、アンディ・ノル（キーボード）らと共に「ルー・グラム・バンド」を結成しました。このバンドでは、フォリナー時代のルーの歌唱曲やソロ曲を中心に演奏し、アメリカ、カナダ、メキシコなどでツアーを行いました。2009年6月には、同名のクリスチャンロックアルバムをリリースしましたが、ルー自身は宣伝不足を指摘しています。

2012年、バンド名を「ルー・グラム・ザ・ヴォイス・オブ・フォリナー」に変更し、引き続きフォリナーのヒット曲を多く演奏しています。バンドメンバーには一部変更がありましたが、このラインナップで現在も精力的に活動を続けています。

長年にわたる音楽キャリアと貢献が評価され、2013年6月13日、ルー・グラムは盟友ミック・ジョーンズと共にソングライターの殿堂入りを果たしました。病を乗り越え、今なおパワフルな歌声でファンを魅了するルー・グラムは、ロック界におけるレジェンドの一人として、その存在感を放ち続けています。

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