レアンコイリア

レアンコイリア：カンブリア紀の多様なメガケイラ類

レアンコイリア（学名：Leanchoilia）は、およそ5億年前にあたる古生代カンブリア紀に生息していた、絶滅した節足動物の一種です。メガケイラ類と呼ばれる初期の節足動物のグループに属し、レアンコイリア科を代表する属として知られています。この仲間は、横に幅の広い体つきと、特徴的な糸状の大付属肢を持つことで識別されます。レアンコイリア属は特に多様化が進んだグループであり、カナダ、アメリカ、中国といった広い範囲のカンブリア紀の地層から、複数の異なる種が見つかっています。

名称の由来

学名である「Leanchoilia」という名前は、カナダにあるヨーホー国立公園内の、カナダ太平洋鉄道にかつて存在した「リーンチョイル駅（Leanchoil station）」の跡地にちなんで名づけられました。

形態

レアンコイリアは、最も大きなもので全長およそ7センチメートルに達しました。体は上下に平たく、幅が広い形状をしています。頭部と、それに続く11節からなる胴部に明確に分かれています。同じレアンコイリア科に含まれるアラルコメネウスやヤウニク、Oestokerkusなど多くの仲間と共通する特徴が見られますが、尾節が細長く尖っている点でこれらの近縁属と区別されます。

頭部

頭部は一枚の幅広い背甲で覆われています。背甲の前縁は丸みを帯びるか、あるいは一本の尖った額角を持つ種がいます。頭部の腹面、最先端部には左右に並んだ2対の眼があり、そのすぐ後方には一枚のハイポストーマ（口を覆う板）が配置されています。さらにその後ろには、1対の頑丈な大付属肢と、3対の二叉型付属肢が備わっており、これらを合わせて計4対の頭部付属肢が存在します。ハイポストーマはしずくのような形をしており、眼や大付属肢、そして最初の二叉型付属肢の間に位置しています。口はおそらくこのハイポストーマの後端部分に開いていたと考えられています。

特徴的な大付属肢は、基部となる2節と、指のように分かれた3節から構成されています。指のような肢節の先端は、他のレアンコイリア科の仲間と同様に、無数の小さな環節に細かく分かれた、長い糸のような鞭毛を持っています。特に3番目の鞭毛の付け根には、まとまった短い爪が見られ、これは退化して痕跡的になった最終肢節の名残と考えられています。L. illecebrosaの幼生では、3番目の指状肢節の内側に鋸の歯のような剛毛が並んでいました。

大付属肢以外の3対の頭部付属肢は、基本的に胴部の付属肢と似た二叉型をしていますが、後方にあるものほど発達していました。特にL. superlataの場合、最初の1対は特殊化が進み、他の2対よりも著しく短く、より発達した棘を持っていました。

胴部

胴部は横幅が広く、前後に向かってやや細くなる楕円形のような輪郭をしています。全部で11の体節からなり、それぞれの体節には左右に大きく張り出した背板と、一対の付属肢が備わっています。胴部の付属肢は全て二叉型で、体の後方にあるものほど短くなる傾向がありました。これらの付属肢は、基部となる原節と、そこから分岐する内肢、そして外肢の3つの部分から成り立ちます。原節の内側には4本の棘からなる顎基があり、外側にはあまり目立たない葉状の外葉が見られます。基部は、内側にいくつかの筋がある節間膜を介して胴節に連結していました。内肢は円錐形をしており、7節から9節に分かれます。各肢節の内側には棘が備わっています。外肢は鰭のような形をしており2節に分かれ、その縁には発達した長い剛毛が生えていました。尾節は細く、先端が尖った形状で、縁に沿って剛毛が並んでいます。

消化管は、胴部の第1節から第7節にかけて、左右に7対の消化腺（中腸腺）が配置されていました。

生態

レアンコイリアは、付属肢の形状や眼の構造、そしてリン酸塩を含む消化管の内容物から、海底の堆積物上を泳ぎながら、そこにいる生物や有機物を捕食したり、腐肉を食べたりしていたと考えられています。二叉型付属肢の外肢は、剛毛が内肢の先端に届くほど長く、また原節や内肢も陸上を歩くにはあまり適した形ではなかったことから、これらの付属肢は主に遊泳に用いられ、原節と内肢は捕食に使われた可能性が高いと推測されています。内肢と外肢は、それぞれの最初の節と2番目の節の連結部で同時に曲がったと考えられます。

感覚器官としての機能を持っていたと思われる糸状の鞭毛を持つ大付属肢で、獲物を捕らえ、その後、二叉型付属肢の顎基を使って餌を細かく砕いていたと考えられます。L. superlataの場合に見られる、ハイポストーマのすぐ後ろ、おそらく口が開く部分にあった短いながらも多くの棘を持つ第1対の二叉型付属肢は、大顎類の小顎のように餌をさらに細かく咀嚼するのに役立った可能性が指摘されています。発達した消化腺を持つことから、レアンコイリアは餌を効率的に消化し、栄養を蓄える能力が高かったと推測されます。

L. illecebrosaの幼生の化石は、成体に比べて体節の数が少なく、大付属肢の形態も異なっていました。このことから、レアンコイリアは成長する過程で体節を徐々に増やしていく「増節変態」という成長様式をとっていたと考えられています。また、幼生と成体では体のつくりが異なるため、おそらく生息環境や食性が異なっていた（異なる生態的地位、ニッチを持っていた）可能性も示唆されています。

分布

メガケイラ類の中でも、レアンコイリア属は近縁のアラルコメネウスに匹敵するほど広範囲に分布していました。その化石は、以下の6つの主要な堆積層から発見されています。

カナダ・ブリティッシュコロンビア州のバージェス頁岩（約5億1000万年〜5億500万年前、バージェス動物群）：L. superlata、L. persephone、L. protogonia
中国・貴州省のKaili Formation：L. robisoni、Leanchoilia sp.
中国・雲南省のMaotianshan Shale（約5億1800万年前、澄江動物群）：L. illecebrosa
中国・湖北省のQingjiang biota：Leanchoilia sp.
アメリカ・ユタ州のSpence Shale：L.? hanceyi、Leanchoilia superlata?
アメリカ・ユタ州のMarjum Formation：Leanchoilia? sp. cf. protogonia
アメリカ・ユタ州のWheeler Shale：Leanchoilia cf. L. illecebrosa

特にL. superlataとL. illecebrosaは、それぞれ1000点を超える多数の化石標本が見つかっており、発見された場所では最も一般的な節足動物の一つであったことが分かっています。

分類と多様性

レアンコイリア（レアンコイリア属）は、メガケイラ類の中のレアンコイリア科において、その模式属（科の基準となる属）とされています。レアンコイリア科には、レアンコイリアの他にアラルコメナエウス、ヤウニク、Oestokerkusなどが含まれており、これらの仲間は2対の眼、3本の鞭毛を持つ大付属肢、そして11節または12節からなる幅広い胴部といった特徴を共有しています。レアンコイリア属は、前述のように、尾節が細く尖った独特な形をしていることで、これらの近縁属から区別されます。また、レアンコイリア科の中で、背甲に額角を持つ種は、このレアンコイリア属にのみ見られる特徴です。

2017年時点で、レアンコイリアはメガケイラ類の中で最も多様な属とされており、少なくとも6種以上が確認されています。これらの異なる種は、主に背甲の前部（額角の有無や形状）と尾節の構造（全体の形や縁の剛毛の配置）によって識別されます。広く受け入れられた見解ではありませんが、バージェス動物群から見つかるL. superlataとL. persephoneは、実は同じ種であり、性の違いによる形態の差（性的二形）ではないかという説も存在します。

以下に、主な確認されている種をいくつか紹介します。

Leanchoilia illecebrosa (Hou, 1987)：旧名はAlalcomenaeus? illecebrosus。背甲の額角は反り上がらず、尾節は後半から丸みを帯びた形で、縁の剛毛は非常に短く後半部にのみ生えます。
Leanchoilia obesa He, Cong, Liu, Edgecombe & Hou, 2017：体の輪郭が他の種よりも太く丸みを帯びており、背甲には額角がありません。尾節は後半から三角形になり、長い剛毛が後半部にのみ生えています。種小名の「obesa」はラテン語で「豊満な」という意味です。
Leanchoilia persephone Simonetta, 1970：背甲に額角はなく、尾節はやや細い三角形で、縁の剛毛は全長にわたって生えています。
Leanchoilia protogonia Simonetta, 1970：尾節が非常に細長く、縁の剛毛は先端部ほど長く、後半部にのみ生えています。
Leanchoilia robisoni Babcock, Zhao & Yang, 2012：尾節全体が三角形で、縁の剛毛は少なくとも後半部に生えています。
Leanchoilia superlata Walcott, 1912：レアンコイリア属の模式種です。背甲の額角は反り上がっており、尾節全体は三角形で先端にやや太い棘を持ち、縁の剛毛は全長にわたって生えています。種小名の「superlata」はラテン語で「誇張された」という意味です。
Leanchoilia? hanceyi Briggs & Robison 1984：尾節全体が三角形で、縁の剛毛は少なくとも後半部に生えています。

レアンコイリアは、カンブリア紀の海洋生態系において、そのユニークな形態と広範な分布、そして多様な種によって、当時の節足動物の進化と生態を理解する上で重要な示唆を与えてくれる古生物の一つです。

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