レイピア (ミサイル)

レイピアミサイル

レイピア（Rapier）は、イギリスのブリティッシュ・エアクラフト・コーポレーション（BAC）が開発した移動式の短距離防空ミサイルシステムです。地上部隊や重要施設を低高度を飛行する航空機の脅威から守るために開発されました。

開発背景

第二次世界大戦後、イギリス陸軍は主要な防空装備であったQF 3.7インチ高射砲をサンダーバード地対空ミサイルに更新しましたが、同時に、当時主流となりつつあった低高度・遷音速の攻撃機に対抗できる新たな短距離防空システムを求めていました。この目的で使用されていたボフォース40mm機関砲は性能不足が指摘されており、その後継となる兵器の開発が急務となりました。

1960年代初頭、陸軍は既存の防空システムよりも高い機動性と全天候能力を持つ低高度ミサイルの必要性を認識します。これを受けて、ヴィッカース社で新型軽対空（LAA）システムの開発が始まり、BAC設立後に同社の誘導兵器部門へ移管され、PT.428計画として具体化しました。しかし、アメリカが開発を進めていたモーラーミサイルの導入が検討された結果、PT.428の開発は一度中止されます。

ところが、そのモーラー計画も中止されたため、イギリス陸軍と空軍は1962年に、より低コストで晴天時における光学追尾が可能な地対空ミサイルシステムの共同要求（GASR.3132）を改めて発出しました。これに先立ち、BACは既にPT.428をベースとした独自の光学追尾システム「サイトライン」の開発を進めていました。共同要求の仕様が固まるにつれて計画はPT.428とは異なるシステムへと変更され、名称もデフォーを経て、1967年1月についに「レイピア」として正式に命名されたのです。

初期の試射は1965年に無誘導で行われ、1967年4月には初の誘導試射に成功。高度約900メートルを飛行する標的機に対し、約3キロメートルの距離から直撃・破壊するという高い命中精度を示しました。評価試験は1968年まで続けられましたが、その間に最初の量産モデルの発注が行われるなど、開発は順調に進みました。

レイピアシステムは、運用開始後も継続的に改良が施されました。初期のFS A（Field Standard A）モデルから、1979年にはFS B1、1988年には夜間・荒天時能力を向上させたFS B2（製品名：レイピア・ダークファイア）へと進化しました。最終的な発展型はFS C（製品名：レイピア2000）で、これは1983年に開発が開始され、1996年から運用が始まりました。また、FS Cを基にした輸出モデルとしてジャーナスも開発されています。

システム構成と設計

レイピアミサイルは、流線型のモノコック構造を持つ弾体で、弾頭、誘導部、推進装置、操縦部から構成されています。誘導方式は目視線指令誘導を採用しており、オペレーターが目標とミサイルの両方を視線内に捉え、ミサイルを目標へ誘導します。レーダー追尾を用いる場合は自動誘導となりますが、光学追尾装置を使用する場合はオペレーターがミサイルを操作する半自動誘導となります。ミサイル尾部に備えられたフレアは、光学追尾時の目印となります。高い単発撃破確率（SSKP）70%以上を目指して設計されました。

弾頭は、初期型では1.4kg、炸薬量0.4kgの半徹甲弾で、着発信管により起爆しました。後に無人航空機（UAV）など小型目標への対応能力を高めるため、破片効果弾頭と赤外線近接信管を備えた改良型弾頭（レイピアMk.2Aミサイルなど）も開発されました。推進装置にはIMI社製の二重推力固体燃料ロケットモーターが用いられ、ミサイルは最大で秒速650メートルに達します。操縦は弾体尾部の操縦舵面がガス圧によって駆動されることで行われます。

システム全体としては、発射機、牽引車両または自走車両、そして射撃統制装置から構成されます。初期のFS Aでは、4連装の発射機が2輪トレーラーに搭載され、広範囲の旋回と俯仰が可能でした。FS B2以降は6連装に変更されています。牽引車両としてはランドローバーやスパキャット製のトラックが使用されました。また、機動性を高めた自走発射機型も開発されており、M548装軌車をベースとした8連装タイプは、装甲を備え振動対策も施されていました。

射撃統制装置はレイピアシステムの鍵となる部分であり、その進化は全天候能力の向上に直結しています。初期のFS Aは光学センサーのみで昼間・晴天時限定でしたが、後にブラインドファイア追尾レーダーを接続できるようになり、夜間や悪天候下でも運用が可能となりました。このレーダーはKバンドを使用し、約10キロメートルの探知距離を持ち、周波数アジリティ機能も備えていました。FS B2では新型光学追尾装置と赤外線暗視装置を統合したダークファイアが採用され、さらにFS Cでは捕捉能力向上のためシーメンス・プレッシー製のダガー3次元レーダーがシステムに組み込まれています。

運用史

レイピアは1977年からイギリス陸軍およびRAF連隊で運用が開始されました。最も有名な実戦投入例は1982年のフォークランド紛争です。この紛争では、ブラインドファイアレーダーを持たないFS Aモデルが合計12セット展開されましたが、アルゼンチン軍の航空機に対し非常に効果を発揮しました。英国政府の公式報告書によれば、レイピアによって少なくとも14機が確実に撃墜され、さらに6機が撃墜された可能性があるとされており、その防空能力の高さが証明されました。

イギリス以外では、イランが初期の主要顧客でした。1970年に発注し、光学式に続いてブラインドファイアレーダーも導入されました。イラン・イラク国境付近での戦闘において、イラク空軍の超音速爆撃機Tu-22を撃墜したのが、レイピアの世界初の実戦使用記録とされています。イラン空軍で運用されていますが、長年の武器禁輸措置によりスペアパーツの入手が困難となり、稼働状態にあるシステムは限られていると見られています。

レイピアはイギリス、イランの他、オーストラリア（既に退役）、ブルネイ、インドネシア、イラン、リビア、マレーシア、オマーン、シンガポール、トルコ、スイス、アラブ首長国連邦、ザンビア、アメリカ合衆国など、多くの国で運用されました。アメリカはトルコ国内の空軍基地防空用として調達し、トルコ軍要員によって運用されました。

レイピアミサイルシステムは、半世紀以上にわたり短距離防空の重要な役割を果たし、その高い命中精度と段階的な改良により、現代戦場における航空脅威への有効な対抗手段として世界各地で信頼されました。

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