QF 3.7インチ高射砲

QF 3.7インチ高射砲は、第二次世界大戦においてイギリス軍の主力として活躍した高射砲です。大戦後も使用され続けましたが、1950年代に地対空ミサイルに更新されました。

開発の背景

第二次世界大戦以前、各国は防空システムの改良に注力していませんでした。しかし、1930年代初期の航空機技術の進歩は目覚ましく、作戦高度が著しく上昇したことで、既存の高射砲では対応が困難になっていました。さらに、航空機の速度向上により、探知から交戦までの時間が短縮され、迎撃はより困難になると考えられていました。

当初、イギリスは空軍爆撃機部隊を抑止力として重視し、防空体制への関心は薄かったのです。しかし、1930年代半ばにレーダーが登場すると、探知能力と捕捉能力が向上し、航空機に対する防御の有効性が再び認識されるようになりました。新型戦闘機スーパーマリンスピットファイアの開発が進められる一方で、高射砲の開発は遅れており、第一次世界大戦で使用された旧式のQF 3インチ 20cwt高射砲が依然として残されていました。そこで、高度30,000フィートを飛行する航空機に対処できる新型高射砲の開発が求められ、QF 3.7インチ高射砲が誕生することになったのです。

開発は急ピッチで進められ、1937年初頭には製造された砲が配備されました。しかし、1938年1月1日の時点でイギリス軍防空部隊が保有していた口径50mm以上の高射砲はわずか180門で、そのほとんどが旧式の3インチ高射砲でした。ミュンヘン会談が行われた1938年9月には341門、第二次世界大戦が勃発した1939年9月には540門に増加し、バトル・オブ・ブリテンの頃には1,140門に達しました。本砲はその後も改良が重ねられ、最終型のMk.VIは1959年まで配備されていました。

QF 3.7インチ高射砲には、固定式と移動式の砲架がありました。移動式砲架は、展開時には安定させるための十字型の脚を備えており、移動時には脚を折り畳み、AECマタドール牽引車に連結して牽引されました。

対戦車砲としての運用

QF 3.7インチ高射砲は、緊急時を除いて対戦車砲として使用されることはほとんどありませんでした。これは、ドイツが88mm高射砲を対戦車兵器として運用したことや、アメリカが90mm高射砲を対戦車任務に就かせたのとは対照的です。

その理由として、QF 3.7インチ高射砲の機動砲架は88mm砲の2倍の重量があり、再配置に時間がかかったことが挙げられます。また、重量のあるAECマタドール牽引車は、通常は表面が堅い地形でのみ使用されていました。さらに、QF 3.7インチ高射砲を装備した重高射砲連隊は軍団または軍司令部の指揮下にあり、師団レベルの指揮官がこれらの部隊を指揮することはできませんでした。加えて、牽引状態での水平射撃は、当初の仕様には含まれておらず、駐退復座機を損傷する可能性がありました。

なお、QF 3.7インチ高射砲は、トータス重突撃戦車の主砲であるオードナンス QF 32ポンド砲の原型となりました。しかし、この戦車が実際に配備されることはありませんでした。

派生型

QF 3.7インチ高射砲には、数多くの派生型が存在します。

Mk.I: 油圧式の駐退機と空気圧式の復座機からなる反動システムを搭載した最初の型。
Mk.II: 砲身と砲尾の構造がMk.Iとは異なる型。ヴィッカース・アームストロング社で製造され、後にカナダがMk.IICとして製造を引き継いだ。
Mk.III: Mk.Iの砲尾とMk.IIの砲身を組み合わせた型。
Mk.IIIA: Mk.IIIと似ているが、補器類が変更され、自動信管設定装置と自動装填装置が導入された。これにより、発射速度が向上し、より安定した射撃が可能になった。
Mk.IV: 3.7インチ砲の弾薬筒の代わりに、海軍のQF 4.5インチ艦砲の弾薬筒を使用するためにライナーを使用した試作型。
Mk.V: Mk.IVと同様の試作型。
Mk.VI: 海軍のQF 5.25インチ艦砲の砲架と、砲身長を延長した新型94mm砲身を組み合わせた型。砲口手前のライフリング溝の深さを徐々に浅くすることで、砲弾の弾道を改善している。最大射高は15,240mに達する。固定式の砲座にのみ配備された。

使用国

イスラエル
イギリス
キプロス
ニュージーランド
ネパール: 5門
日本
ポルトガル

日本での鹵獲と調査

日本は太平洋戦争初期に南方戦線でイギリス軍からQF 3.7インチ高射砲を鹵獲し、第一陸軍技術研究所で調査しました。1942年12月には本砲の説明書が完成し、「押収三･七吋高射砲」という名称で使用されました。

もう一度検索