レオナルド・ダ・ヴィンチ手稿

レオナルド・ダ・ヴィンチ（1452-1519）は、ルネサンス期を代表する万能の天才として知られています。彼の多才ぶりは、絵画のみならず、科学、技術、解剖学など多様な分野に及び、その膨大な研究成果は、彼が生涯にわたって書き綴った手稿に記録されています。

しかしながら、彼の残した手稿の約3分の2は失われており、現存するのは約5000ページと推定されています。これらの手稿は、レオナルドの死後、弟子であるフランチェスコ・メルツィに相続された後、幾多の編纂を経て、現在私たちが目にする様々な手稿集へと姿を変えました。『アトランティコ手稿』『アランデル手稿』『ウィンザー手稿』といった代表的な手稿集は、元々の構成とは異なる形で再編され、現代に伝えられています。

それぞれの手稿集は、レオナルドの多様な関心を反映した内容となっています。

主要な手稿集の概要

アトランティコ手稿: ミラノのアンブロジアーナ図書館に所蔵されている、1119葉からなる大規模な手稿集です。数学、幾何学、天文学、植物学、動物学、工学、軍事技術など、多岐にわたる分野の研究内容が、デッサンや注釈とともに記されています。

トリヴルツィオ手稿: ミラノのスフォルツァ城にあるトリヴルツィアーナ図書館に収蔵されています。軍事や建築に関する考察に加え、レオナルド自身の文学的素養を高めようとする試みも垣間見える、51葉の手稿集です。

鳥の飛翔に関する手稿: トリノ王立図書館に所蔵されています。その名の通り、鳥の飛翔メカニズムに関する詳細な考察が記されており、翼、空気抵抗、風などの力学的な分析が、レオナルド独自の視点で展開されています。

パリ手稿: パリフランス学士院に収蔵されている12冊の手稿集で、軍事技術、光学、幾何学、鳥の飛翔、水力学など多様なテーマが網羅されています。

アッシュバーナム手稿: パリフランス学士院に収蔵されている2冊の手稿集で、絵画に関する考察や、その他の多様なテーマの手稿が含まれています。元々は他の手稿集の一部でしたが、19世紀に独立した手稿集としてまとめられました。

ウィンザー手稿: イギリスのウィンザー城にある王室コレクションに収蔵されています。解剖学、地理学、馬の研究、スケッチ、地図など、約600点のデッサンが収められています。

アランデル手稿: ロンドン大英図書館に所蔵されている、物理学、力学、光学、幾何学、建築などの多様な分野を網羅した手稿集です。

フォースター手稿: ロンドンのヴィクトリア＆アルバート博物館に収蔵されている3冊の手稿集で、幾何学、物理学、水力機械、建築などを扱っています。

マドリード手稿: スペイン国立図書館に所蔵されている2つの手稿集です。機械構造、機械理論、透視図法、光学、そして『アンギアーリの戦い』のデッサンなど、多様な内容が含まれています。比較的最近になって再発見された手稿です。

レスター手稿: 水理学と天文学に関する研究が中心の手稿集です。ビル・ゲイツが所有していることで知られています。

邦訳について

レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿の邦訳は、岩波文庫の杉浦明平訳『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』が広く知られています。しかし、これは全訳ではなく選集であることに注意が必要です。また、1967年に発見されたマドリード手稿などは、現在でも翻訳されていないものも多くあります。その他、岩波書店や朝倉書店などから、専門的な解説を付した高価な図録なども多数出版されています。これらは、原典の精密な複製や詳細な注釈を収録した、研究者や専門家向けの出版物です。

レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿は、彼の多様な才能と、時代を超えた知的好奇心を示す貴重な遺産です。それらを紐解くことで、ルネサンス期の科学技術や芸術の隆盛を理解する一助となるでしょう。これらの手稿を研究することは、現代の科学や芸術にも新たな視点を与える可能性を秘めていると言えるでしょう。

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