レオン・ラッセル (アルバム)

レオン・ラッセル（Leon Russell）

『レオン・ラッセル』は、アメリカが生んだ希代のシンガーソングライター、レオン・ラッセルが1970年に世に送り出した、ソロ名義としては記念すべき初のスタジオ・アルバムです。この作品は、彼自身がデニー・コーデルと共に立ち上げた新興レーベル「シェルター・レコード」にとって、第一歩となる重要なリリースでもありました。

制作背景

アルバムの楽曲制作は、主に1969年後半から1970年初頭にかけて行われました。レコーディングの大半は1969年9月にロンドンで行われましたが、一部の楽曲はそれ以降のセッションで録音されました。例えば、「ギヴ・ピース・ア・チャンス」は1969年11月、「デキシー・ララバイ」は12月22日、「ハミングバード」は12月29日、そして後に彼の代表曲となる「ソング・フォー・ユー」とボブ・ディランのカヴァーである「戦争の親玉」は1970年1月のセッションで完成しています。

特筆すべきは、本作に参加したミュージシャンたちの顔ぶれの豪華さです。レオン・ラッセル自身のボーカルとピアノを中心に、ギターにはジョージ・ハリスン、エリック・クラプトン、デラニー・ブラムレット、ベースにはビル・ワイマン、クラウス・フォアマン、アラン・スペナー、ボビー・ウィットロック、ドラムスにはリンゴ・スター、チャーリー・ワッツ、B・J・ウィルソン、ジム・ゴードンといった、当時のロックシーンを彩る錚々たる顔ぶれが集結しました。また、サクソフォーンでジム・ホーン、バッキング・ボーカルとしてボニー・ブラムレット、クライディ・キング、メリー・クレイトン、そしてジョー・コッカーといった実力派が参加しており、レオン・ラッセルの幅広い交友関係と、彼がミュージシャンたちからどれほどリスペクトされていたかを物語っています。

収録曲と楽曲にまつわるエピソード

アルバムには全11曲（オリジナル盤）が収録されています。オープニングを飾る「ソング・フォー・ユー」は、後にレイ・チャールズやカーペンターズなど、数多くのアーティストにカヴァーされ、スタンダードとなった名曲です。この曲はラッセルの内省的なバラードの傑作として知られています。「デルタ・レディ」は、当時ラッセルと親しい関係にあった歌手リタ・クーリッジに捧げられた楽曲で、本作収録に先立ち、ジョー・コッカーが彼のアルバムで取り上げています。

その他の主要曲には、ゴスペルフィーリング溢れる「ハミングバード」や、ニューオーリンズ色を感じさせる「デキシー・ララバイ」（クリス・ステイントンとの共作）などがあります。ボブ・ディランのカヴァー「戦争の親玉」は、オリジナルのメロディとは異なり、アメリカ国家である「星条旗」のメロディが引用されている点がユニークです。この楽曲は、オリジナルLPの最初のプレス盤には「Old Masters」というタイトルで収録されていましたが、その後の版では一度外され、後のCD再発時にボーナス・トラックとして再び加えられています。

反響と評価

商業的には、アメリカのBillboard 200チャートで最高60位を記録しました。日本においては、1972年12月20日に「ソング・フォー・ユー」という邦題でLPがリリースされ、オリコンLPチャートで62位を獲得しています。

当時の評論家からは高い評価が寄せられました。ニューヨーク・タイムズ紙のドン・ヘックマンは、1970年のレビューで、ラッセルがジョー・コッカーのバッキング・グループのリーダーとして注目されるだろうとしながらも、このアルバムこそが彼の素晴らしい才能を証明する最良の作品であると絶賛しました。また、音楽評論家のスティーヴン・トーマス・アールワインは、オールミュージックにおいて5点満点中4.5点の高評価を与え、「ソング・フォー・ユー」「ハミングバード」「デルタ・レディ」といった収録曲を挙げ、レオン・ラッセルがこれらの楽曲を含む本アルバムほどの傑作をその後に再び作り上げることはなかっただろうと評しています。

このアルバムは、レオン・ラッセルというアーティストの多才さと、ソングライター、アレンジャー、ピアニストとしての卓越した能力を広く知らしめるきっかけとなりました。特に「ソング・フォー・ユー」は、時代を超えて歌い継がれる彼の代表的なレガシーの一つとなっています。また、本作に収録された「ハミングバード」はB.B.キングやジミー・ペイジに、「ギヴ・ピース・ア・チャンス」はジョー・コッカーによってカヴァーされるなど、後世のミュージシャンにも影響を与えています。

『レオン・ラッセル』は、豪華なセッションミュージシャンを従えつつも、レオン・ラッセル自身の個性と才能が光る、彼のキャリアにおいて非常に重要な位置を占める作品と言えるでしょう。

もう一度検索