レオ10世 (ローマ教皇)

レオ10世：ルネサンスを彩った教皇

レオ10世（1475年12月11日 - 1521年12月1日）は、ルネサンス期のフィレンツェを代表するメディチ家出身の人物であり、フィレンツェのシニョーレ（領主）を経て、ローマ教皇に就任しました。本名はジョヴァンニ・デ・メディチといい、その生涯は政治と文化、そして宗教改革という歴史の転換期と深く関わっています。

生涯と政治

フィレンツェの黄金時代を築いたロレンツォ・デ・メディチの次男として生まれたレオ10世は、幼少の頃から聖職者の道を歩み始めました。16歳で枢機卿に任命されるという異例の出世を遂げましたが、父ロレンツォの死後、メディチ家は一時的に衰退し、フィレンツェから追放されることになります。しかし、1512年にはスペイン軍の力を借りてフィレンツェに帰還し、メディチ家の復権を果たしました。

翌1513年、ユリウス2世の死後、37歳でローマ教皇に選出されたレオ10世は、「最年少にして、最も醜男の教皇」と評されることもありました。先代のユリウス2世が戦争を好んだのに対し、レオ10世は平和主義者として外交に力を注ぎました。フランスと神聖ローマ帝国の対立が激化する中、父から受け継いだ政治感覚を発揮し、両国の間で巧みなバランス外交を展開しました。

1515年には、フランス国王フランソワ1世がミラノに侵攻すると、フランスと妥協しボローニャ協定を締結。1519年には、神聖ローマ帝国皇帝の選挙で、カール5世の即位を阻止しようとフランソワ1世を支援しましたが、失敗に終わりました。しかし、宗教改革の動きが活発化すると、カール5世と同盟を結び、対抗することになります。

文化と芸術の庇護者

レオ10世は政治家としての側面だけでなく、文化と芸術の庇護者としても名を残しました。先代の教皇が始めたサン・ピエトロ大聖堂の建設を引き継ぎ、ミケランジェロやラファエロといったルネサンスを代表する芸術家たちのパトロンとなり、ローマを中心とするルネサンス文化の最盛期を築きました。

教皇戴冠式の際には、「かつてウェヌス（アレクサンデル6世）が支配し、その後マルス（ユリウス2世）が治め、今やミネルヴァ（レオ10世）の時代が来らん」という銘文が掲げられた凱旋門が建てられたほどです。特にラファエロを寵愛し、自らの肖像画やシスティーナ礼拝堂の壁掛け、バチカン宮殿回廊の天井画・壁画などを制作させました。

ミケランジェロとは幼少の頃から親交がありましたが、彼の気難しい性格を敬遠し、ローマから遠ざけて、フィレンツェでサン・ロレンツォ教会の仕事を行わせました。

宗教改革との関わり

レオ10世の治世は、宗教改革という歴史的な出来事とも深く関わっています。1517年にサン・ピエトロ大聖堂の建設資金を調達するために、ドイツで贖宥状（免罪符）の販売を許可したことが、マルティン・ルターによる宗教改革の直接的なきっかけとなりました。

また、レオ10世は贅沢を好み、浪費を続けたため、教皇庁の財政は破綻寸前に陥りました。ルターからは「新しきバビロン」と非難されるなど、その享楽的な生活は批判の対象となりました。

死とその後

1521年、レオ10世は45歳で急死しました。風邪をこじらせた、あるいはマラリアが原因とも言われていますが、毒殺説もささやかれています。彼の死後、ハドリアヌス6世が教皇に選出されましたが、わずか1年で死去し、レオ10世の従弟であるクレメンス7世が教皇に就任しました。

レオ10世は、ルネサンス文化の発展に大きく貢献した一方で、宗教改革の引き金となるなど、その生涯は光と影の両面を持ち合わせていました。彼が残した功績と過ちは、今日においても歴史家によって様々な議論がなされています。

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