レシプロソー

レシプロソーとは

レシプロソー（reciprocating saw）またはセーバーソー（saber saw）は、往復運動する鋸刃を用いて、金属や木材などの様々な材料を切断するための電動工具です。その名の通り、ブレードが前後に往復する動作が特徴で、これにより効率的な切断作業が可能になります。

概要

レシプロソーは、特に開口工事においてその利便性を発揮します。狭い場所での金属管や鉄筋の撤去、木材や化粧ボードの切断など、幅広い用途で利用されています。一般的に、ストローク（鋸刃の動く距離）は約1インチが多く、ジグソーと比較してブレードが厚く丈夫であり、機械自体の出力も大きいため、切断力が強いのが特徴です。

名前の由来は、ブレードの動きが往復運動（reciprocating）であることから「レシプロソー」と呼ばれています。また、「セーバーソー」という名称は、オランダ語のサーベル（西洋の剣）に似ていることから、英語の「saber」に由来しています。

種類

レシプロソーには、主に交流電源式と直流電源式（充電式）の2種類があります。

- 交流電源式: 高い出力が必要な作業に適しており、切断作業が過酷な場合に多く用いられます。
- 直流電源式: 近年、バッテリー技術の進歩により高性能化が進んでいます。初期のニッケル・カドミウム蓄電池から、ニッケル・水素充電池、そしてリチウムイオン二次電池へと進化し、モーターもカーボンブラシモーターからブラシレスモーターへと移行しています。これにより、コードレスで取り回しが良く、作業場所を選ばずに使用できる利便性が向上しています。

また、水中での作業用に、エアー駆動式のレシプロソーも存在します。

機能

レシプロソーの基本的な機構は、モーターの回転をギア（多くはベベルギアまたはヘリカルギア）を介して減速し、往復運動に変換する仕組みです。ブレードは、ギアに連結されたシャフトに取り付けられ、このシャフトの往復運動によって切断作業が行われます。機械本体を材料に押し付けるように保持し、ブレードを被切断材に押し付けると、往復運動によって材料が切断されます。

レシプロソーは往復運動による振動が大きいですが、機種によっては反動を軽減する機構が搭載されているものもあります。例えば、カウンターウエイト機構などがその一例です。

トリガースイッチの構造も、機種によって異なります。国内の交流電源式モデルには、作業性を優先してスイッチオンを保持するロックボタンが付いていることが多いですが、充電式や欧米のモデルでは、誤作動防止のため、スイッチオンにする際に解除操作が必要な安全設計が採用されています。

特殊なタイプとして、配管業者向けに鋼管の切断に特化した製品もあります。これらは、支持棒付きのバイスと専用の厚くて幅広のブレードを備え、オービタル機構によって切断作業の効率と精度を高めています。このタイプの製品は、1985年にドイツのREMS社が最初に発売し、その後、国内の配管機器メーカーも同様の製品を発売しています。

オービタル機構

オービタル機構とは、ブレードの往復運動に加えて、上下方向の揺動動作を加えることで、切断効率を向上させる機能です。ブレードが楕円軌道を描くように動くことで、被切断材への食い込みが良くなり、より速く切断できます。往路では楕円軌道の上側を、復路では下側を動き、ブレードが本体側に引き込まれる際に被切断材に食い込む方向に運動軌跡を描くことで、切断能率を大幅に向上させます。オービタル機構は、切断する材料に合わせて上下の動きを調整できるものが一般的です。

スピードコントローラー

レシプロソーには、ブレードのスピードを調整する機能が搭載されている機種があります。切断開始時には、ブレードの速度を遅くすることで、跳ねたり横にずれたりするのを防ぐことができます。また、被切断材に合わせてスピードを調整することで、鋸刃の寿命を延ばし、より良い切れ味を維持することができます。

初期のモデルでは、高速と低速の切り替えのみでしたが、現在ではダイヤルやスイッチで速度を調整できる「電子制御スピードコントローラー」や、負荷に応じて速度を自動調整する「電子制御フィードバックスピードコントローラー」が主流です。

「電子制御スピードコントローラー」は、負荷がかかるとストローク数が低下する傾向がありますが、「電子制御フィードバックスピードコントローラー」は、負荷時でも設定したストローク数を維持するように自動調整します。通常の交流電源式機種では、ストロークを1インチ前後に設定し、ストローク数を0～3,000min-1(SPM)の間で無段階に調整できるものが多いです。

ブレード（鋸刃）の種類

レシプロソーのブレードは、往復運動するシャフトへの取付部と、鋸刃が付いた部分が約3度から5度の角度で取り付けられています。この角度が、復路での鋸刃の被切断材への切り込みを助けます。

ブレードは、切断する材料に合わせて選択する必要があります。木材用、金属用、ステンレス鋼用、樹脂材用など、さまざまな種類があります。鋸刃の材質や1インチあたりの山数は、各メーカーがそれぞれの材料に合わせて工夫を凝らして製品化しています。主な材質としては、炭素工具鋼、ハイス、コバルトハイス、バイメタルなどが使用されます。

レシプロソーの便利な使い方として、壁や床の際での切断がありますが、この場合には、曲げても折れにくいバイメタル鋸刃を使用し、曲がった状態で往復作動させて切断作業を行うことができます。

ブレードのシャフトへの取り付け部分は各社共通ですが、微妙な寸法の違いがあるため、替え刃を購入する際には、必ず説明書で適用機種を確認する必要があります。ブレードの製造は、国内の電動工具メーカーの場合、自社生産ではなくOEMである場合が多いです。鋸刃専門メーカーとしては、河部鋸刃工業株式会社、福知山興行株式会社、株式会社ハウスビーエムなどがあります。これらのメーカーは、取り付け寸法を工夫し、自社ブランドで各社のレシプロソーに対応する「兼用替え刃」を販売しています。

ステンレス材の切断

ステンレス鋼は、加工が難しい材料（難削材）として知られています。高速で切断すると、切削時に加熱されて表面硬度が高くなり、鋸刃の摩耗を早めてしまいます。そのため、ステンレス鋼の切断は、ゆっくりとした速度で行うことが重要です。レシプロソーを使用する場合、ストロークが約1インチの機種であれば、約1000min-1(SPM)程度の速度に設定することで、鋸刃の切削速度がステンレス材に適したものになります。ステンレス鋼の切断には、コバルトハイスまたはバイメタルのブレードが推奨されます。

パイプ状のステンレス鋼を切断する場合は、肉厚によって適切な刃を選ぶ必要があり、厚肉管には歯の荒い鋸刃を、薄肉管には歯の細かい鋸刃を選ぶことが推奨されます。

主なメーカー

レシプロソーの主なメーカーとしては、海外ではミルウォーキ(Milwaukee)、ロックウェル(Rockwell)、スキル(Skil)（黎明期）、ボッシュ(Bosch)、ブラック&デッカー(STANLEY)などが、国内では[工機ホールディングス]]、京セラインダストリアルツールズ]、[[マキタなどが知られています。

レシプロソーが最初に開発された時期は不明確ですが、Milwaukeeは1951年に手持ち式のレシプロソーを発売しています。また、アメリカの科学誌POPULAR SCIENCEの1961年の記事には、STANLEYのレシプロソーが掲載されています。

参考文献

『DIY工具選びと使い方』 2008年11月1日発行株式会社ナツメ社