レス・バクスター

アメリカ合衆国テキサス州に生まれたレス・バクスター（1922年 - 1996年）は、作曲家、編曲家、指揮者として多岐にわたる活躍を見せました。特に、マーティン・デニーと並んでエキゾチカ（エキゾチック・サウンド）の創始者・代表的存在として世界的に知られています。

幼少期にデトロイト音楽学校でピアノを学びましたが、そのキャリアはサックス奏者として始まり、各地での演奏活動や、スウィングバンドにおけるアレンジャーとしての経験を積みました。

1950年代に入ると、彼はムードミュージックや映画音楽の世界に進出します。代表的な業績としては、アルバム『RITUAL OF THE SAVAGE』に収録された楽曲「QUIET VILLAGE」が挙げられます。この曲は、エキゾチック・ミュージックのジャンルにおいて古典的なスタンダードとなり、マーティン・デニーのバンドでも演奏されたほか、今日に至るまで多くのミュージシャンによってカバーされ続けています。

1960年代には、スーツ姿の保守的なフォーク・グループ、バラディアーズを結成しました。このグループには、後に著名なシンガーソングライターとなる若き日のデヴィッド・クロスビーや、その兄であるイーサンが参加していました。さらに彼は、バラディアーズに参加していた一部の歌手と共に、スタジオ・プロジェクトであるザ・フォーラムを立ち上げます。彼らは1967年、フィル・スペクターが開発した革新的な「ウォール・オブ・サウンド」の手法を取り入れた楽曲「The River Is Wide」を制作し、マイナーながらもヒットを記録しました。また、同時期にはラジオの世界でもその才能を発揮し、『The Halls of Ivy』、『Bob Hope』、『Abbott and Costello』といった人気番組の音楽監督を務めました。

彼のキャリアにおいて重要な位置を占めるのが映画音楽です。1960年代から1970年代にかけて、特に低予算映画で知られるアメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ（AIP）において精力的に活動しました。ロジャー・コーマン監督によるエドガー・アラン・ポー原作のホラー映画シリーズ、『アッシャー家の惨劇』、『恐怖の振子』、『忍者と悪女』などの不気味なスコアを手がけたほか、『ビーチ・パーティ/やめないで、もっと!』やフランキー・アヴァロン主演の『ムキムキ・ビーチ』といった明快なビーチパーティ映画の音楽も担当し、その作曲スタイルの幅広さを示しました。1970年のホラー映画『バンシーの叫び』では、当初のスコアがAIPに却下されたため、劇場公開用に新たに音楽を作曲するというエピソードも残っています。また、ハワード・W・コッチ監督は、1954年の西部劇『イエロー・トマホーク』において、バクスターがわずか3時間で全楽曲の作曲、オーケストレーション、レコーディングを完了させ、報酬として5,000ドルを受け取ったという驚くべき逸話を語っています。

1980年代に入り、映画音楽の仕事が減少傾向となる中で、彼は活動の場をテーマパークへと移しました。シーワールドなどのアトラクションやショーのための音楽制作に携わり、晩年まで作曲活動を続けました。

レス・バクスターは1996年1月15日、カリフォルニア州ニューポートビーチで73歳でその生涯を閉じました。遺体はカリフォルニア州コロナ・デル・マーにあるパシフィック・ビュー・メモリアル・パークに埋葬されています。エキゾチカから映画音楽、ポップス、ラジオ、テーマパーク音楽に至るまで、彼は多様なジャンルで独自の音楽世界を創造し、20世紀のポピュラー音楽シーンに独特の色彩を添えました。

もう一度検索