レット・イット・ビー...ネイキッド

レット・イット・ビー...ネイキッド：ビートルズの原点回帰

2003年、ビートルズから『レット・イット・ビー...ネイキッド』というアルバムがリリースされました。このアルバムは、1969年に行われた通称「ゲット・バック・セッション」で録音された楽曲を、新たにリミックスした作品です。

オリジナルの『レット・イット・ビー』は、フィル・スペクターのプロデュースにより1970年に発表されました。しかし、ポール・マッカートニーは、スペクターによるアレンジに強い不満を抱いていました。特に「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」のアレンジは、彼の当初の意向から大きくかけ離れたものになっていたのです。

マッカートニーは、ゲット・バック・セッションのマルチトラックテープから、より自然なサウンドでアルバムを制作することを構想しました。これは、当時制作された映画『レット・イット・ビー』のサウンドトラックとは異なる、より生の演奏に近い音源を目指したものでした。この構想に、リンゴ・スター、オノ・ヨーコ、そして亡くなる前にジョージ・ハリスンも同意。メンバー全員の承認を得て、『レット・イット・ビー...ネイキッド』は制作されることになったのです。

このリミックス作業では、アビー・ロード・スタジオのエンジニアたちが中心となり、最新の技術が駆使されました。しかし、オリジナルの音に余計な加工を加えるのではなく、演奏された楽曲の自然なサウンドを最大限に活かすことに重点が置かれました。この「ありのままの」という意味を込めて、アルバムは『レット・イット・ビー...ネイキッド』（裸のレット・イット・ビー）と名付けられました。

オリジナル版との最も大きな違いは、収録曲です。「マギー・メイ」と「ディグ・イット」がカットされ、代わりに映画で使用されたもののオリジナル版には収録されていなかった「ドント・レット・ミー・ダウン」が追加されています。また、「アイヴ・ガッタ・フィーリング」や「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」なども、オリジナルとは異なるテイクが使用されています。各楽曲において、演奏テイクの選択、不要な音の除去、そしてデジタルによる修正などが行われ、より自然で、演奏時の臨場感が伝わる仕上がりとなっています。例えば「ゲット・バック」では、シングル収録バージョンやオリジナルアルバムに含まれていたコーダやセリフがカットされ、1969年1月27日録音のテイクが使用されています。「アイ・ミー・マイン」では、スペクターによる編集は残しつつもオーケストラが除去されました。エンジニアのガイ・マジーは、オーケストラを除去したことで楽曲が短くなりすぎたことを懸念したと語っています。

さらに、このアルバムには、ゲット・バック・セッションの様子を収めたボーナス・ディスク「Fly on the Wall」が付属しています。このディスクには、セッション中の会話や、未発表の楽曲の一部なども収録されており、当時のビートルズの雰囲気を味わうことができる貴重な資料となっています。

『レット・イット・ビー...ネイキッド』は、ビートルズの音楽制作における様々な要素が凝縮された作品です。オリジナル版とは異なるアプローチで制作された本作は、ビートルズの音楽をより深く理解する上で重要な作品であり、彼らが目指していた「生の音」を聴くことができる、貴重なアルバムと言えるでしょう。当初、日本盤はコピーコントロールCD（CCCD）として発売されましたが、音質劣化の問題から批判を受け、その後CD-DAで再発売されるなど、発売形態にも波乱がありました。しかし、その音楽的価値は揺るぎないものです。

収録曲（抜粋）

ゲット・バック
ディグ・ア・ポニー
フォー・ユー・ブルー
ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
トゥ・オブ・アス
アイヴ・ガッタ・フィーリング
ワン・アフター・909
ドント・レット・ミー・ダウン
アイ・ミー・マイン
アクロス・ザ・ユニバース
レット・イット・ビー

演奏

ジョン・レノン
ポール・マッカートニー
ジョージ・ハリスン
* リンゴ・スター

その他、ジョージ・マーティンやビリー・プレストンといった外部ミュージシャンも参加しています。

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