レッドトップ (ミサイル)

レッドトップ空対空ミサイル

レッドトップは、イギリスの航空機メーカーであるホーカー・シドレー社（後にブリティッシュ・エアロスペースに統合）によって開発された、第三世代の空対空ミサイルです。イギリスが独自に開発し、実戦配備した空対空ミサイルとしては、ファイアフラッシュ（限定的運用）およびファイアストリークに続く存在となりました。このミサイルは、目標が発する熱を追尾する赤外線パッシブホーミング方式を採用しており、その特徴として、当時としては先進的であった限定的ながらも全方向からのロックオンが可能であった点が挙げられます。

開発の経緯

レッドトップの開発計画は、1956年にデ・ハビランド社によって、既存の空対空ミサイルであるファイアストリークの性能向上型として「ブルー・ジェイ Mk.4」（後のファイアストリーク Mk.4）の開発コード名で始まりました。しかし、開発は単なる改良に留まらず、最終的には構成部品の配置を全面的に見直した新規設計のミサイル開発へと発展しました。

設計上の大きな変更点の一つは、ファイアストリークでは後方に配置されていた弾頭を、ミサイルの前方に移設したことです。これにより、機体内部のスペース利用がより効率的になりました。また、ミサイルの性能向上に不可欠な主要コンポーネントも刷新されました。目標の熱源を捉えるシーカーには改良型の「バイオレット・バナー」赤外線シーカーが、目標に接近した際に自動的に炸裂させる信管には「グリーン・ガーランド」赤外線近接信管が採用されました。さらに、ミサイルに推進力を与えるロケットブースターには、より強力な「リネット」が搭載されました。弾頭の破壊力も強化され、ファイアストリークの22.7kgから31kgへと増量されました。電子機器においても、当時の主流であった真空管から、より小型で信頼性が高く、冷却装置を必要としないトランジスターへと変更が進められました。

性能と開発上の制約

これらの改良の結果、レッドトップは先行するファイアストリークと比較して、より高い速度と優れた運動性能を獲得しました。特に、改良された赤外線シーカーは目標を捕捉できる角度が広がり、追尾性能が大幅に向上しました。その感度の高さから、目標航空機が高速で飛行する際に機体表面に発生する摩擦熱をも捉えてホーミングすることが可能となり、従来の赤外線ミサイルでは難しかった側面や前方からの限定的な攻撃能力を実現しました。

しかし、開発は当時のイギリスの防衛政策の影響を受けました。1957年の防衛白書による有人戦闘機開発計画の見直し・縮小の結果、レッドトップは後続のブラッドハウンド Mk. II 地対空ミサイルが配備されるまでの一時的な「つなぎ」としての位置づけがなされました。このため、開発段階で計画されていたさらなる性能向上のためのいくつかの改良は実現に至らず、アメリカのAIM-9L/M サイドワインダーのような完全な全方向ロックオン能力は実現しませんでした。レッドトップの全方向ロックオン能力は、主として高速飛行によって大きな摩擦熱を発生させる目標機体に対して限定されるものでした。さらに、当時の多くの赤外線ミサイルと同様に、レッドトップは雲の中や視界の悪い気象条件下での使用が難しく、特に冬季のイギリスのような曇天が多い環境では運用に制約が伴いました。

実戦配備と運用

レッドトップは1964年にイギリス軍での実戦配備が始まりました。主に、イギリス空軍の主力迎撃機であるイングリッシュ・エレクトリック ライトニング（F.3, F.6, T.5各型）と、イギリス海軍艦隊航空隊の運用するデ・ハビランド シービクセン艦上戦闘機（FAW.2型）の主要兵装として使用されました。レッドトップは先行するファイアストリークを徐々に代替する形で配備が進められましたが、両方のミサイルは並行して運用されました。レッドトップは、搭載機の一つであるライトニングが1988年に退役するまで、一部が現役で使用されていました。

その他の開発計画

レッドトップとは別に、ファイアストリークを基にセミアクティブレーダー誘導方式を採用する「ブルー・ドルフィン」（あるいはブルー・ジェイ Mk.V）と呼ばれる発展型の開発が提案されましたが、この計画は1958年にキャンセルされ、実現しませんでした。

主な採用国

レッドトップ空対空ミサイルは、以下の国や組織で運用されました。

クウェート空軍
サウジアラビア空軍
イギリス空軍
イギリス海軍艦隊航空隊

レッドトップは、イギリスが独自に発展させた空対空ミサイル技術の頂点の一つを示す存在であり、その限定的ながらも全方向ロックオンを可能にした能力は、その後のミサイル開発における重要なステップとなりました。

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