レムス

レムス：ローマ建国神話の悲劇的英雄

ローマ建国神話において、ロームルスと共に重要な役割を担ったレムスは、紀元前8世紀頃にアルバ・ロンガで誕生したと伝えられています。レムスと双子の兄ロームルスは、アルバ・ロンガ王位簒奪者アムーリウスの命令により、生後間もなくティベリス川に捨てられました。

しかし、二人は奇跡的に生き延びます。川岸に流れ着いたかごを、雌オオカミが発見し、乳を与えて育てたとされています。さらにキツツキが運んできた食物によって命を繋ぎ、その後、羊飼いのファウストゥルスとその妻アッカ・ラレンティアに発見され、養育されました。一説には、幼少期にはガビイで教育を受けたとも伝えられています。

成長したレムスとロームルスは、優れた牧夫として知られるようになり、周囲の牧夫たちのリーダーとなります。やがて、彼らはアムーリウスへの反乱に加担。レムスは一時捕らえられますが、その際、王位を奪われたヌミトル王によって身元が明かされます。レムスは、ヌミトルの孫であり、レア・シルウィアの子であったのです。

この事実を知ったヌミトル王とレムス、ロームルスは、アムーリウスを打倒し、ヌミトル王をアルバ・ロンガの王位に復位させます。母のレア・シルウィアも解放されました。

その後、レムスとロームルスは、新たな都市建設を目指します。しかし、ここで二人の間に対立が生じます。都市建設地と名称、そして王位を巡って意見が対立。アウェンティヌスをレムス、パラティヌスをロームルスが主張しました。最終的に鳥占いで決着をつけることになりますが、結果に納得できず、争いが勃発します。

いくつかの伝承が存在しますが、その争いの末、レムスはロームルスによって殺害されたとされています。一説には、ロームルスが築き始めたパラティヌスの城壁をレムスが嘲笑し、越えたことが原因と伝えられています。ポメリウムと呼ばれる都市の境界、聖域を犯したことがレムスの死を招いたとされるのです。また、別の伝承では、レムス殺害犯はケレルという人物であったとされています。

18歳で生涯を終えたレムスは、アウェンティヌスに埋葬されました。その場所は「レモリア」と呼ばれ、レムスを偲ぶ場所として後世に伝えられました。レムスの死は、ローマ建国神話の悲劇的な側面として、後世の歴史家や作家に様々な解釈を与え続けています。ロームルスによる殺害説、あるいは他の説など、伝承には複数の解釈が存在し、歴史的実証は困難です。

レムスとロームルスの物語は、ローマ建国神話の根幹を成すだけでなく、兄弟間の葛藤や権力闘争、そして運命の皮肉さを象徴する物語として、現代においても多くの人々に語り継がれています。様々な解釈がなされる物語であるだけに、歴史的文献や研究成果を参照しながら、多角的な視点から理解を深めることが重要です。

参考文献

プルタルコス『プルターク英雄伝 (1)』「ロムルス」岩波文庫
松田治『ローマ神話の発生』現代教養文庫

もう一度検索