レーモン・オーブラック

レーモン・オブラック

レーモン・オブラック（Raymond Aubrac、本名：Raymond Samuel）は、1914年7月31日に生まれ、2012年4月10日に亡くなった、フランスを代表するレジスタンス運動の活動家です。第二次世界大戦中、ドイツによるフランス占領という未曽有の危機の中で、彼は祖国の解放を目指し、危険を顧みず闘いを繰り広げました。

彼のレジスタンスとしての活動は、早くも1939年に始まります。ヴォージュ県でドイツ軍に敗れ、捕虜となった彼は、サールブールにある刑務所に収容されました。しかし、その年の8月には見事な脱獄を果たし、ヴィシー政権の支配下にあったリヨンへと逃れます。

リヨンに到着したオブラックは、単なる潜伏にとどまらず、積極的な抵抗活動の組織化に着手します。彼はレジスタンス系の新聞「リベラシオン」の発行を企画し、そのための紙や印刷所を確保するため、主にイタリア軍の占領地域で精力的に活動しました。マルセイユやモンペリエといった主要都市にも情報網を構築し、抵抗運動の基盤を築いていきます。

こうした活動を通じて、彼はレジスタンス組織「リベラシオン・シュド」の結成に深く関わります。しかし、抵抗運動は常に危険と隣り合わせでした。1943年3月15日、リヨンでフランス警察によって逮捕されてしまいます。幸いにも、予審判事の判断により、裁判が行われるまでの間は一時的に釈放されることとなりました。

つかの間の自由の後、彼は再び逮捕の危機に直面します。1943年6月初旬、リヨン近郊のカリュイールで、今度はドイツ秘密警察ゲシュタポに逮捕されました。フォール・モンルック刑務所に送られた彼は、約4ヶ月間にわたり過酷な拷問を受け、極限状態に置かれます。

この絶望的な状況の中で、彼の人生に大きな転機が訪れます。1943年9月21日、彼は獄中で妻となるリュシーと面会します。リュシーは貴婦人に扮してゲシュタポの目を欺き、彼との面会を実現させたのです。二人はこの面会で、獄中での結婚契約を交わしました。

そして、さらに劇的な展開が待っていました。1943年10月21日、正式に結婚が認められた妻リュシーは、レジスタンスの同志たちと共に、夫と他の活動家が移送されるドイツ軍の移送車を大胆に襲撃しました。この決死の作戦は見事に成功し、オブラックを含む14人のレジスタンス活動家が解放されたのです。

危機を脱したオブラックは、1944年2月15日にアルジェリアに渡り、自由フランス政府の再建に貢献しました。戦後も彼は社会の再建に関わりましたが、彼の経歴には論争も伴いました。特に、高名なレジスタンス指導者ジャン・ムーランの逮捕に彼が関与したという疑惑が持ち上がり、歴史家パトリック・マーンハムから強い批判を受けることとなります。

波乱に満ちた生涯を送ったレーモン・オブラックは、2012年4月10日、パリのヴァル・ド・グラース軍病院で、97歳でその生涯を閉じました。彼の生涯は、第二次世界大戦下のフランスにおけるレジスタンス運動の困難さと、それを支えた人々の勇気を示すものとして記憶されています。

もう一度検索