ロイ・アックス

ロイ・アックス（Royden Axe、1937年 9月 - 2010年 10月5日）は、20世紀後半のイギリスを代表するカーデザイナーの一人です。イングランド北東部スカンソープで生を受け、後に世界的な自動車デザインの世界で重要な足跡を残しました。享年73歳。

デザイナーとしてのキャリア

アックスのプロとしてのキャリアは、1959年に当時イギリス有数の自動車メーカーであったルーツ・グループにデザイナーとして入社したことから始まります。彼はその才能と努力によって組織内で頭角を現し、チーフ・スタイリストを務めた後、デザイン部門全体を統括する部長へと昇格しました。

ルーツ・グループは1966年にアメリカの自動車大手クライスラーの欧州部門、クライスラー・ヨーロッパの傘下に入りましたが、アックスは引き続きそのデザインチームの中枢で重要な役割を果たしました。

ブリティッシュ・レイランド時代

1982年、アックスは活動の場をブリティッシュ・レイランド（BL）へと移します。彼はそこで、著名なデザイナーであるデビッド・ベイチュの後任として、スタイリング・ディレクターという要職に就きました。BLに入社した同年、彼はコヴェントリーにあるカンリー工場敷地内に新設されるデザインスタジオ設立プロジェクトの責任者を任されます。この新しい創造拠点を立ち上げるだけでなく、将来を担う優秀なデザイナーたちを積極的に採用し、チーム体制を強化することにも尽力しました。

このカンリーの新デザインスタジオから最初に生み出された重要なプロジェクトの一つが、「プロジェクトXX」として開発された新型車でした。これが後に、日本のホンダとの共同開発で大きな注目を集めた大型セダン、ローバー・800として結実します。また、未来的なフォルムを持つコンセプトカー、MG EX-Eなどもこの時期にアックスのリーダーシップの下でデザインされました。

アックスは、BL時代に開発が進められていたオースチン・モンテゴのデザインにも深く関与しました。このモデルの開発自体は彼がBLに移籍する以前から進行していましたが、量産化に向けた最終段階でのデザイン調整や変更に携わる機会を得ました。例えば、当時のデザイントレンドであった、車体側面を横断する黒いラインの追加など、彼のデザイン思想が加えられた箇所が見られます。しかし、BLが抱える慢性的な財政難の影響を受け、モンテゴとその姉妹車であり、ベイチュがデザインしたオースチン・マエストロの市場投入は、当初の予定より数年遅れることとなりました。

代表的なデザイン作品

アックスが関与した主要なデザイン作品には、ルーツ/クライスラー時代からBL時代にかけて、以下のような多岐にわたるモデルが含まれます。

1967年：サンビーム・レイピア / サンビーム・アルパインクーペ
1970年：ヒルマン・アヴェンジャー / プリムス・クリケット
1975年：クライスラー・アルパイン（後のタルボ・アルパイン）
1976年：クライスラー・ハンター
1977年：イラン・ホドロペイカン（フェイスリフト版）
1979年：クライスラー・ホライズン（後のタルボ・ホライズン）
* 1986年：ローバー・800（ホンダ・レジェンドと並行開発）

コンサルティングへの転身と晩年

1991年、アックスは活躍の場を再び移します。彼は、1986年にローバー社からのマネジメント・バイアウト（MBO）によって設立された車両デザインの専門コンサルティング会社、デザイン・リサーチ・アソシエーツ（DRA）の経営トップに就任しました。ウォーウィックを拠点とするDRAは、その専門性と実績を評価され、1999年には世界的なエンジニアリング・コンサルタント企業であるアラップによって買収されることになります。

晩年のアックスは、癌を患い、2年間に及ぶ懸命な闘病生活を送りました。そして、2010年 10月5日、アメリカのフロリダ州で静かに息を引き取りました。73年の生涯でした。

著書

彼のデザインに対する考え方やキャリアの軌跡については、自身の著書『A Life in Style, Autobiography of Roy Axe』で詳細に語られています。

ロイ・アックスは、激動のイギリス自動車産業において、ルーツ、クライスラー、BLといった異なる組織で重要なデザイン責任者を務め、数々の量産車やコンセプトカーのデザインを牽引しました。彼の功績は、これらの車を通じて今なお記憶されています。

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