ロスト・バード

ロスト・バード：虐殺の生存者、文化の狭間で生きた女性

ロスト・バード（Lost Bird, zintkala nuni, 1890年 - 1920年）は、アメリカ先住民ラコタ・スー族の女性です。彼女は、1890年に起こったウーンデッド・ニーの虐殺の生存者であり、その悲劇的な運命は、アメリカ史における先住民の苦難を象徴しています。スー語で「ジトカラ・ヌニ（失われた鳥）」と呼ばれた彼女の生涯をたどります。

ウーンデッド・ニーの虐殺

1890年、ロスト・バードは現在のサウスダコタ州で生まれました。当時、平原インディアンは保留地に押し込められ、狩猟を禁じられ、食糧不足に苦しんでいました。そんな中、パイユート族のウォヴォカが提唱するゴースト・ダンスが、スー族の間で広まりました。ゴースト・ダンスは「踊れば白人の銃弾が効かなくなる」という教義を持ち、アメリカ政府はこれを警戒し、武力弾圧を行いました。

ミネコンジュー・スー族のシハ・タンカ（ビッグ・フット）酋長のバンドは、ゴースト・ダンスの信奉者が多くいました。タタンカ・イヨタケ（シッティング・ブル）の暗殺後、彼の支持者たちはシハ・タンカのバンドに合流し、ウーンデッド・ニー近くの「冬の村」へと移動していました。アメリカ政府はこれを危険視し、陸軍部隊を派遣し、1890年12月29日、ウーンデッド・ニーで無差別な虐殺が起こりました。この虐殺で、200人以上の人々が命を落としたとされています。

生存と強制的な引き離し

虐殺から4日後、民間人によって掘られた穴に、インディアンの遺体が無造作に投げ込まれました。その作業中に、凍ったラコタの女性の遺体の下から、赤ん坊の泣き声が聞こえました。それがロスト・バードでした。彼女は母親に抱きかかえられた状態で発見され、一命を取り留めました。

発見後、彼女はラコタの老女に引き取られ、「ジトカラ・ヌニ」と名付けられました。しかし、アメリカ軍がラコタの野営を訪れた際、ネブラスカ州軍を率いるレナード・W・コルビー准将が、彼女を「ウーンデッド・ニーの虐殺の生きたマスコット」として利用しようと考え、老女から無理やり引き離し、養女としました。

白人社会での生活と葛藤

南北戦争の英雄であったコルビー准将は、ロスト・バードを養女にすることで自身の名声を高めようとしました。彼は彼女に白人の名前を与え、ワシントンD.C.の社交界で彼女を披露しました。コルビーはインディアンを歓迎する際にも彼女を利用し、自身も混血であるかのように装い、土地取引で利益を得ました。

しかし、コルビーの妻であるクララ・コルビーは、ロスト・バードの扱い方に反発し、彼女を教育して「白人として」立派な女性にしようとしました。しかし、それは白人側の価値観に偏っており、インディアンとしてのルーツを知りたいと願う彼女の要求を満たすことはできませんでした。ロスト・バードは白人の学校やインディアン寄宿学校に通いましたが、順応できず、差別や体罰に苦しみ、悪夢に悩まされる日々を送りました。

一方、コルビーは愛人と駆け落ちし、ロスト・バードを顧みなくなりました。クララはコルビーと離婚し、ロスト・バードは貧困にあえぐことになりました。

さまざまな職業と悲劇的な最期

17歳の時、クララは再婚したコルビーにロスト・バードを預け、自身は死産しました。コルビーと再婚相手の元で暮らすことになったロスト・バードは、その後も虐待や梅毒などに苦しみ、生活のためにカリフォルニア州に移りました。そこで、サイレント映画やバッファロー・ビルの『ワイルド・ウェスト・ショー』で働きました（売春もしていたとされています）。結婚し、子供も産みました。

1920年、スペインかぜが流行し、ロスト・バードも罹患し、2月14日、29歳で亡くなりました。故郷を想いながらの死でした。彼女の遺体はカリフォルニア州の墓地に埋葬されていましたが、1991年、ウーンデッド・ニー遺族協会によって墓が発見され、故郷であるサウスダコタ州の親族が眠る墓地へ改葬されました。

ロスト・バードの生涯は、虐殺という悲劇、文化の狭間で揺れ動いた苦悩、そして人としての尊厳を求める闘いでした。彼女の物語は、今もなお、私たちに多くの教訓を与え続けています。

参考文献

* The Lost Bird of Wounded Knee, SDPB

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