ロッカ・ローラ

ジューダス・プリースト『ロッカ・ローラ』

『ロッカ・ローラ』（Rocka Rolla）は、英国のヘヴィメタル・バンド、ジューダス・プリーストが1974年に世に送り出した記念すべきデビュー作品である。キャリアの幕開けを飾るこのアルバムは、その後のバンドの軌跡を予感させる要素を含みつつも、初期ならではの多様な音楽性を試行錯誤した様子がうかがえる。

制作背景

バンドは1974年4月16日、英国の独立系レーベルであるガル・レコードと契約を締結した。この契約締結の後、ギタリストとしてグレン・ティプトンが加入し、ロブ・ハルフォード（ボーカル）、K.K.ダウニング（ギター）、イアン・ヒル（ベース）、ジョン・ヒンチ（ドラムス）という5人体制のラインナップが固まる。新たな体制となったバンドは、同年6月からレコーディングを開始した。プロデュースは、当時すでにブラック・サバスやバッジーといった著名なハードロック・バンドとの仕事で評価を得ていたロジャー・ベインが手掛けた。

楽曲と内容

アルバムには、後にバンドのトレードマークとなる攻撃性の一端が見られる楽曲に加え、ブルースやサイケデリックの影響を感じさせる多様なスタイルが収められている。特に注目すべき点として、ロブ・ハルフォード加入以前にリードボーカルを務めていたアル・アトキンスが楽曲制作に関与したナンバーも含まれていることが挙げられる。「ウィンター」や「ネヴァー・サティスファイド」などがそれにあたり、アトキンス自身も後に自身のソロアルバムでセルフカバーを行っている。

収録曲の大半は、中心メンバーであるロブ・ハルフォードとK.K.ダウニングの共作だが、一部にインストゥルメンタル曲（「ディープ・フリーズ」「キャビア・アンド・メス」）も配されている。カヴァー曲としては、一部再発盤にボーナストラックとして収録されたジョーン・バエズ作の「ダイヤモンズ・アンド・ラスト」がある。このバージョンは、後のアルバム『背信の門』に収録されたテイクとは異なるもので、コンピレーションアルバム『ヒーロー、ヒーロー』で最初に発表された。また、「ネヴァー・サティスファイド」は、米国のパワーメタル・バンド、アーマード・セイントによって2001年のアルバムでカヴァーされている。

視覚的要素と市場の反応

オリジナル盤のジャケットデザインは、世界的に有名な清涼飲料水であるコカ・コーラのロゴをパロディ化したものだったが、再発盤ではデザインが変更されているケースも多い。

本作の発表に先立ち、同名のシングル「ロッカ・ローラ」もリリースされたが、シングル、アルバム共に当時の音楽チャートにランクインすることはなかった。商業的には成功と言えないスタートとなった。

制作時の課題とメンバーの評価

このデビューアルバムの制作過程には、いくつかの課題が存在した。特に、レコーディング後のミキシングやマスタリングの段階でバンドメンバーが十分に立ち会うことができず、最終的なサウンドの仕上がりにメンバーは不満を抱いていたとされている。ロブ・ハルフォードは、完成したアルバムを聴いて「がっかりした」と公言するなど、彼らの理想とする音像からはかけ離れたものだったようだ。

50周年記念リミックス＆リマスター盤

時を経て、このデビューアルバムに新たな光が当てられることとなる。当時の発売元であったガル・レコードから、バンドのギタリストであるグレン・ティプトンが設立した音楽出版社「リーチ・ミュージック・パブリッシング」へ、本作および次作『運命の翼』のマスターテープと出版権が売却されたという経緯がある。この過程で、長らく保管されていたオリジナルのマルチトラック・テープが発見されたことが、アルバムの「復活プロジェクト」始動の大きな契機となった。

バンドと長年協同してきた名プロデューサー、トム・アロムを迎え、発見されたマルチトラック・テープと最新の音響技術を駆使したリミックス作業が敢行されたのだ。これは、オリジナル盤でメンバーが不満としていた音質を現代の基準に合わせ、より彼らの意図に近いサウンドで作品を蘇らせることを目的としている。そして、アルバム発表から50周年を迎える2024年の記念として、この全く新しく生まれ変わった『リミックス & リマスター盤』（型番：VICP-65628）が、2024年11月20日に日本で先行リリースされた。これにより、ファンはバンドの原点が持つポテンシャルを、現代の技術によって引き出された最良のサウンドで体験できるようになった。

参加ミュージシャン

本作の録音に参加したメンバーは以下の通りである。

ロブ・ハルフォード：ボーカル、ハーモニカ
K.K.ダウニング：リードギター
グレン・ティプトン：リードギター、シンセサイザー、バッキング・ボーカル
イアン・ヒル：ベース
ジョン・ヒンチ：ドラムス

収録曲リスト

オリジナル盤に収録された楽曲は以下の通り（特記なき限り、作詞・作曲はロブ・ハルフォードとK.K.ダウニング）。

1. ワン・フォー・ザ・ロード - One for the Road - 4:36
2. ロッカ・ローラ - Rocka Rolla (Rob Halford, K. K. Downing, Glenn Tipton) - 3:04
3. ウィンター - Winter (Al Atkins, Downing, Ian Hill) - 3:02
4. ディープ・フリーズ - Deep Freeze (Downing) - 1:56 (インストゥルメンタル)
5. ウィンター・リトリート - Winter Retreat - 1:31
6. チーター - Cheater - 2:55
7. ネヴァー・サティスファイド - Never Satisfied (Al Atkins, Downing) - 4:49
8. ラン・オブ・ザ・ミル - Run of the Mill (Rob Halford, K. K. Downing, Glenn Tipton) - 8:33
9. ダイイング・トゥ・ミート・ユー - Dying to Meet You - 6:18
10. キャビア・アンド・メス - Caviar and Meths (Al Atkins, Downing, Ian Hill) - 2:04 (インストゥルメンタル)

ボーナス・トラック（一部再発盤に収録）

ダイヤモンズ・アンド・ラスト - Diamonds & Rust (Joan Baez) - 3:12 (コンピレーション・アルバム『ヒーロー、ヒーロー』収録バージョン)

もう一度検索