ロッキー・マウンテン航空217便墜落事故

1978年 12月4日、アメリカ合衆国コロラド州のスチームボート・スプリングス近郊で、ロッキー・マウンテン航空217便（デ・ハビランド・カナダ DHC-6-300）が離陸直後に墜落する事故が発生しました。スチームボート・スプリングス空港を出発し、ステープルトン国際空港へ向かっていたこの国内定期旅客便には、乗員2名と乗客20名の合わせて22名が搭乗していましたが、うち2名が犠牲となりました。多くの搭乗者が厳しい条件下で生還したことから、この事故は後に「バッファロー峠の奇跡」として知られることになります。

事故機の情報

事故を起こしたデ・ハビランド・カナダ DHC-6-300、機体記号N25RMは、1973年に製造された双発ターボプロップ機でした。エンジンはプラット・アンド・ホイットニー・カナダ製のPT6A-27型を2基搭載しており、総飛行時間は15,145時間を記録していました。

乗員の経歴

機長は29歳、1974年9月にロッキー・マウンテン航空に入社し、総飛行時間は7,340時間、うちDHC-6型機での飛行時間は3,904時間でした。副操縦士は34歳で、1978年6月に入社。総飛行時間は3,816時間、DHC-6型機では320時間の経験を持っていました。副操縦士は事故後、無事パイロットとしての職務に復帰しています。

事故に至る経緯

当日の状況

事故発生当日は、事故機に搭乗していた乗員による先行のフライトでも、強風や深刻な着氷が報告されていました。ステープルトン国際空港からスチームボート・スプリングスへ向かった先行便（216便）の機長は、11,000フィートから15,000フィートの高度で激しい着氷に遭遇したことを航空会社のディスパッチャーに報告しています。この報告は受け付けられましたが、後続便の着陸は可能と判断されていました。

離陸、そして墜落へ

217便は当初、16時45分に離陸予定でしたが、先行便の遅延などにより出発が大幅に遅れました。フライトプランでは計器飛行方式（IFR）で高度17,000フィートまで上昇する計画でした。離陸前の外部点検で、機長と副操縦士は主翼に付着した氷を確認し、手で取り除こうとしましたが、機体に適切な除氷作業は行われませんでした。

18時55分、217便はスチームボート・スプリングス空港を離陸しました。機体は13,000フィートまでは上昇できたものの、通常の出力と速度ではそれ以上の高度を得ることが困難でした。その後、雲中に入ると非常に激しい着氷に見舞われました。搭載された除氷装置は機能していましたが、機体全体の性能低下を防ぐことはできませんでした。

19時14分、パイロットはスチームボート・スプリングス空港への引き返しを管制官に伝え、許可を得ます。19時22分には、激しい着氷のため引き返していること、そして他の航空機に注意を促す連絡を行いました。しかし、事態は好転しませんでした。19時39分、パイロットは管制官に対し、もはや高度を維持することが難しい状況であることを報告します。

機長はエンジンを最大出力に設定しましたが、高度13,000フィートを保つことはできませんでした。フラップを展開することで一時的に降下を抑えようとしましたが、対気速度は90〜100ノットまで低下し、激しい着氷とそれに伴う空気抵抗の増大、さらに強い下降気流の影響を受け、機体は毎分およそ240メートルから300メートルという速さで高度を失い始めました。

墜落の直前、副操縦士は地表を視認し、機長に右への回避旋回を指示しました。19時45分頃、機体の右翼が送電線に接触。パイロットは暗闇を避けながら機体を制御しようと試み、最終的に岩場に囲まれた雪原に墜落しました。幸いにも機体は大きな樹木との衝突を避け、ある程度の原型を保っていました。横転したものの、搭乗口がある側面が上を向いていたため、複数の乗客が自力で機外へ脱出することができました。

救助活動

墜落とほぼ同時刻に近隣地域への電力供給が不安定になったことから、救助隊はウォールデン近郊の送電線に航空機が接触した可能性を考慮し、その周辺を捜索しました。翌朝、12月5日の午前7時45分頃になってようやく救助隊が墜落現場に到達しました。現場は雪深く、険しい地形だったため、搭乗者全員の救助が完了するまでにはさらに4時間以上を要しました。この一連の救助活動の様子は、同行していたテレビ局のカメラマンによって記録されています。副操縦士は雪に埋もれたコックピット内に2時間以上閉じ込められていましたが、無事救出され生還しました。

犠牲者

この事故で、搭乗していた森林局の女性職員一名が現場で命を落としました。機長も重傷を負い病院に搬送されましたが、事故から3日後に残念ながら息を引き取りました。

事故調査

国家運輸安全委員会（NTSB）による事故調査では、事故当時の気象状況が詳細に分析されました。スチームボート・スプリングス付近では山岳波が発生していたことが判明しましたが、地上の風は穏やかであり、上空の逆転層の影響で山岳波の発生を示唆する地上の兆候が確認できなかったとみられています。また、離陸前に確認された主翼への着氷は、墜落の直接的な原因となるほどではなかったものの、飛行性能の低下に影響を与えた可能性が指摘されました。

NTSBは、事故の主な原因として、機体に付着した着氷（駐機中のものおよび飛行中に発生したもの）と、遭遇した強い下降気流が、機体の上昇性能を著しく損なわせたと結論付けました。さらに、事故の要因の一つとして、飛行困難な気象条件下にもかかわらず、機長が飛行を継続する判断を下したことが挙げられました。事故調査報告書は、機長がそれまでの飛行で着氷や強風の存在を認識していたにもかかわらず、飛行を強行した点を指摘しています。

事故後の影響

この事故を受けて、スチームボート・スプリングス空港からの出発手順が見直されました。悪天候時における安全を確保するため、離陸後すぐに山岳地帯を越えるのではなく、より高度を得てから進むような経路変更が行われました。また、事故から長い年月が経過した2009年3月には、生存者である副操縦士や乗客らが、ウィングス・オーバー・ザ・ロッキーズ航空宇宙博物館にて当時の救助隊員たちと再会を果たし、奇跡的な生還とその後の人生について語り合いました。

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