ロバート・バーン

ロバート・バーン

ロバート・バーン（Robert Byrne）は、1928年4月20日に生を受け、2013年4月12日にその生涯を閉じたアメリカ合衆国の高名なチェスプレーヤーです。ニューヨーク出身の彼は、競技者として、またチェスに関する優れた書き手としても、長年にわたり世界のチェス界に貢献しました。

彼の競技者としてのキャリアは輝かしいものでした。わずか26歳で、チェスプレーヤーにとって最高の栄誉であるグランドマスターの称号を獲得しました。これは、当時のアメリカにおいて彼の才能が抜きんでていたことを示しています。

特に記憶される対局の一つに、1963年12月18日に全米選手権で相対したボビー・フィッシャーとの一戦があります。この対局は、バーンが惜敗を喫したものの、特定のオープニング、すなわちグリュエンフェルド・ディフェンスの実践における模範的なゲームとして、今日でも多くのチェス愛好家や研究者によって参照され、分析されています。その複雑かつダイナミックな展開は、現代チェスの教科書にも登場するほどです。

彼のキャリアにおいて、1973年の世界チェス選手権挑戦者決定戦サイクルでの活躍も特筆すべきでしょう。下馬評では決して本命視されていなかったバーンでしたが、第2次予選において強豪ひしめく中で見事3位という傑出した成績を収めました。この予想を覆す躍進は、彼の実力が高く、安定していたことの証左と言えます。しかし、続く第3次予選、すなわち挑戦者決定戦の最終段階では、当時の世界最強プレーヤーの一人であり、前世界チャンピオンであったボリス・スパスキーと対戦することになりました。この厳しい戦いにおいて、バーンは残念ながら0勝3敗で敗退し、世界チャンピオンへの挑戦権獲得には至りませんでした。しかし、彼が世界のトップレベルに肉薄したことは紛れもない事実です。

競技者としての活動に加え、ロバート・バーンはジャーナリスト、コラムニストとしても多大な影響力を持ちました。1972年から2006年までの実に34年間という長期にわたり、アメリカを代表する新聞であるニューヨーク・タイムズ紙にチェスの専門コラムを執筆していました。週に3回という高頻度で寄稿された彼のコラムは、多くの読者にチェスの魅力、戦術、そして世界のチェス界の動向を伝え、チェスの普及と理解促進に大きく貢献しました。

また、彼の家族にもチェスプレーヤーがいました。弟のドナルド・バーンも国際的に認められたチェスプレーヤーであり、インターナショナル・マスターの称号を持っていましたが、全身性エリテマトーデスという病により、45歳という若さで亡くなりました。兄弟でチェスの道を歩んだことは、バーン家のチェスへの深い関わりを示しています。

ロバート・バーンは、卓越した競技能力でグランドマスターとなり、歴史的な対局を通じて後世に影響を与え、さらにメディアを通じてチェスの魅力を広めた人物です。彼の功績は、アメリカのチェス史において重要な一章を占めています。

（参考文献：有田謙二 著 『チェス・マスター・ブックス 5 やさしい実戦集』 河出書房新社、1976年）

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