ロベルト・デ・シモーネ

ロベルト・デ・シモーネ（Roberto De Simone）は、1933年8月25日にナポリで生まれ、2025年4月6日に故郷で91年の生涯を閉じた、イタリアを代表する作曲家、著作家、オペラ演出家、そして多分野にわたる研究者（音楽学、神話学、民俗学）でした。

多彩な才能とその軌跡

デ・シモーネの活動は極めて多岐にわたり、それぞれの分野で重要な足跡を残しました。彼のキャリアは、イタリア南部の豊かな伝統文化、特に音楽と演劇に対する深い敬愛に根ざしています。

1970年代には、彼が率いる「民俗歌曲の新団体」（Nuova Compagnia di Canto Popolare, NCCP）が、イタリア南部の失われつつあった伝統音楽を再発見し、それを現代に提示することで国際的な評価を確立しました。この活動を通じて、彼は伝統音楽が持つ芸術的価値を広く知らしめることに貢献しました。この頃から音楽劇への強い関心を示しており、1976年にスポレートで初演された音楽寓話『雌猫のチェネレントラ』は、NCCPも参加した伝説的な公演として、彼の名を世界に知らしめる決定打となりました。この作品は、ナポリの作家ジャンバッティスタ・バジーレの物語集『ペンタメローネ』に収められた民話をもとにしたもので、伝統と現代が融合した独自のスタイルを確立しました。

音楽劇の分野では、1980年代初頭から2003年に共同制作者であるヴィルジリオ・ヴィラーニが亡くなるまで、ナポリの劇団「メディア・アエタス」との蜜月な協働が続きました。ヴィラーニはデ・シモーネ作品の舞台化に不可欠な役割を果たしましたが、彼の死後、デ・シモーネはメディア・アエタスを離れ、それ以降は様々な団体と共演を重ねました。

彼はまた、オペラ演出家としても高い評価を得ており、特にイタリア国外での活躍が目立ちました。ウィーンでの『ドン・ジョヴァンニ』、ミュンヘンでの『マクベス』、ミラノでの『ナブッコ』、ヒューストンでの『チェネレントラ』など、数々の名作オペラの演出を手がけ、その独自の解釈と表現力で観客を魅了しました。一方、イタリア国内では、単なるオペラ演出家としてだけでなく、現代文化全般に影響力を持つ著名人として広く認識されていました。

指導者としても重要な役割を果たしました。1980年代にはナポリのサンカルロ劇場で芸術監督を務め、1995年から2000年にかけてはナポリ音楽院（サンピエトロ・ア・マイェッラ音楽院）の理事長として、次世代の音楽家育成に尽力しました。また、1970年代にはナポリ美術アカデミアで劇場史を教えるなど、教育活動にも積極的に関わりました。

著述活動

デ・シモーネは優れた著述家でもあり、彼の著作は、長年探求してきた音楽劇、音楽文化、そして特にナポリの豊かな民俗文化に関する深い洞察に満ちています。1977年から出版活動を開始し、多くの著作がEinaudi社から刊行されました。代表的な著作には、『雌猫のチェネレントラ』の台本を収めたものや、『悪魔と聖人．ナポリのバロック劇』、『ナポリ民衆のプレゼピオ』、『ナポリ歌謡』に関するものなどがあり、これらは彼の研究成果を知る上で貴重な資料となっています。

顕彰

彼の多大な功績は広く認められ、数々の顕彰を受けました。フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、イタリア共和国功労勲章コメンダトーレ（1985年）、同グランデ・ウッフィチャーレ（1998年）などが授与されています。また、2003年にはサンセヴェリーノ・ロベルト1世賞を受賞しました。

ロベルト・デ・シモーネは、伝統を深く理解しつつ、それを現代的な感覚で再創造する独自の才能により、イタリア、特にナポリの文化シーンに計り知れない影響を与えました。作曲家、演出家、学者という多面的な活動を通じて、彼はイタリアの芸術と文化遺産の継承と発展に生涯を捧げました。

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