ロマンティックな小品 (ドヴォルザーク)

ロマンティックな小品 作品75

アントニーン・ドヴォルザークの《ロマンティックな小品》（チェコ語: Romantické kusy）作品75（B. 150）は、1887年1月に完成されたヴァイオリンとピアノのための4曲からなる組曲です。この作品の大きな特徴は、直接ヴァイオリンとピアノのために構想されたのではなく、同年に作曲された弦楽三重奏のための《ミニアチュール》（作品75a、B. 149）を、作曲者自身が改編したものであるという点にあります。

創作の背景と経緯

この作品が生まれるきっかけは、ドヴォルザークが当時暮らしていたプラハの自宅での出来事に遡ります。ドヴォルザーク家では、夫人の母親と同居しており、その一室を化学を学ぶ若い学生ヨセフ・クルイスに貸していました。クルイスはヴァイオリンを学んでおり、プラハ国立劇場管弦楽団員ヤン・ペリカンの指導を受けていました。クルイスとペリカンが共にヴァイオリンを演奏するのを耳にしたヴィオラ奏者であったドヴォルザークは、彼らと一緒に演奏できるような弦楽三重奏曲を作曲することを思い立ちます。

こうして、1887年1月7日から14日にかけてまず《三重奏曲ハ長調》作品74（B. 148）が作曲されました。しかし、この曲はクルイスにとって演奏が難しすぎたため、ドヴォルザークはより平易な別の弦楽三重奏曲の作曲に着手しました。これが《ミニアチュール》（チェコ語: Drobnosti、バガテルとも訳される）と呼ばれた作品です。この三重奏曲は「カヴァティーナ」「奇想曲」「ロマンス」「悲歌（あるいはバラード）」と題された4つの楽章から構成されます。ドヴォルザークは1887年1月18日付の楽譜出版社ジムロックへの手紙で、この「小さなミニアチュール集」について触れ、「あたかも大作の交響曲を書くように楽しんで創作している」「これらの曲はアマチュア向けだが、ベートーヴェンやシューマンも単純な手段で何かを表現したではないか」と述べています。

ドヴォルザークはこの弦楽三重奏版の小品集に満足しつつも、すぐにヴァイオリンとピアノのための編曲に取りかかりました。この新版が《ロマンティックな小品集》作品75と名付けられ、自筆譜には1887年1月25日の日付が記されています。作品は同年、ベルリンのジムロックから出版されました。

興味深いことに、ドヴォルザークは後に三重奏版の存在を忘れてしまい、1901年にはジムロックに対し、三重奏とされている曲が《ロマンティックな小品》であるはずはないと釈明しています。作曲家自身の勘違いであったことは、1938年に自筆の三重奏版譜面が再発見されたことで明らかになりました。最初の形である三重奏曲《ミニアチュール》が出版されたのは、実に1945年になってからのことでした。

初演

ヴァイオリンとピアノのための《ロマンティックな小品》は、1887年3月30日にプラハにて初演されました。演奏は作曲者自身のピアノ伴奏と、プラハ国立劇場管弦楽団のコンサートマスターであったカレル・オンドジーチェク（著名なヴァイオリニスト、フランティシェク・オンドジーチェクの弟）のヴァイオリンで行われました。

オリジナルの《ミニアチュール》（弦楽三重奏版）の初演は、はるかに遅れて1938年2月24日、プラハ市立図書館におけるドヴォルザーク室内楽曲の演奏会で、プラハ四重奏団のメンバーによって行われました。

楽曲解説

弦楽三重奏のための《ミニアチュール》

当初は特定の題名を持たない曲集でしたが、ドヴォルザークは手紙の中で「ミニアチュール」と呼んでいます。各楽章には、学生クルイスによって題名が付けられ、作曲者の同意を得ていたようです。

1. カヴァティーナ (Moderat, 変ロ長調, 4/4拍子): 第1ヴァイオリンによる穏やかな旋律で始まります。中間部でより感情的な表現が現れます。伴奏はヴィオラの低音と第2ヴァイオリンのオスティナート音型によって支えられています。
2. 奇想曲 (Poco Allegro, ニ短調, 2/4拍子): より快活な性格を持ち、単純な和声の変奏を伴います。特に終盤には民族音楽を思わせる要素が感じられます。
3. ロマンス (Allegro, 変ロ長調, 4/4拍子): 夢見るような雰囲気を持つ楽章です。第1ヴァイオリンの旋律線は、第2ヴァイオリンのトリルによって彩られています。
4. 悲歌（バラード） (Larghetto, ロ短調, 9/8拍子): 最も構成が凝っており、冒頭の短いパッセージから悲哀を帯びた雰囲気が展開されます。全4曲を通した演奏時間は約14分です。

ロベルト・シューマンの影響が指摘されており、それぞれ異なる楽想を持つ性格的小品集としてまとめられています。未完成の8小節の断片が現存しており、ドヴォルザークがもう1曲加えるつもりだった可能性も示唆されています。異例なことに、この曲集は緩徐楽章である第4曲で締めくくられています。

ヴァイオリンとピアノのための《ロマンティックな小品集》

ドヴォルザークは、ヴァイオリンとピアノ版への編曲にあたり、音楽の内容自体にはほとんど変更を加えていません。第1曲のごく一部で和音の最低音を修正したことや、第3曲の終わりに4小節を追加してわずかに長くした程度です。しかし、第2曲と第3曲では、オリジナルからの発想記号の変更が見られます。

1. アレグロ・モデラート (Allegro Moderato, 変ロ長調, 4/4拍子)
2. アレグロ・マエストーソ (Allegro Maestoso, ニ短調, 2/4拍子) ※発想記号変更
3. アレグロ・アパッショナート (Allegro Appassionato, 変ロ長調, 4/4拍子) ※発想記号変更、4小節追加
4. ラルゲット (Larghetto, ト短調, 9/8拍子) ※調がロ短調からト短調に変更

このヴァイオリンとピアノ版は、ドヴォルザークの親しみやすく抒情的な一面を示す作品として、室内楽作品の中でもよく知られ、広く演奏されています。

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