ロリカ・ハマタ

ロリカ・ハマタ



概要


ロリカ・ハマタは、古代ローマの軍隊において、兵士たちが身を守るために広く着用した代表的な鎧の一つです。この鎧は、金属の小さな輪を多数連結して作られる、いわゆる鎖帷子(チェインメイル)構造を持っています。その採用期間は非常に長く、共和政ローマ時代から帝政ローマの終末期に至るまで、ローマの歴史のほとんどを通じて主要な防具として用いられました。

歴史と変遷


ロリカ・ハマタのローマへの導入は、共和政ローマ時代にケルト人との交流を通じてその鎧の構造に影響を受けた結果であると考えられています。ローマ軍に採用されて以降、その実用性の高さから標準的な装甲として広く普及しました。しかし、帝政ローマ期、特に1世紀から2世紀にかけての一定期間には、ローマ市民権を持つ正規の軍団兵には、より複雑な構造を持つ板金鎧であるロリカ・セグメンタタが支給される一方で、非ローマ市民からなる補助部隊(アウクシリア)の兵士が主にロリカ・ハマタを着用するという使い分けが行われた時期もありました。これは、製造コストや支給体系、部隊の役割分担など、様々な要因によるものと推測されています。

しかし、2世紀以降になると、再びロリカ・ハマタは軍団兵を含むローマ全軍において主要な鎧として広く使われるようになります。その後のローマの軍事史を通じて、帝政が揺らぎ始める末期に至るまで、ロリカ・ハマタは兵士たちの基本的な装甲であり続けました。5世紀頃の帝政ローマ末期においてもその重要性は変わりませんでしたが、初期と比較すると形状に変化が見られます。例えば、初期のロリカ・ハマタは太ももあたりまでの丈で、袖も肘程度の長さが一般的でしたが、末期には丈が膝上まで伸び、袖もより長くなる傾向が見られました。これは、戦術や敵の装備の変化に対応するための改良であったと考えられます。このように、ロリカ・ハマタは時代の流れや戦場の要求に応じながら、細かな変化を遂げつつ、ローマ軍の長い歴史を支え続けた実績のある鎧と言えます。

構造と特徴


ロリカ・ハマタの基本的な構造は、緻密に組み合わされた多数の金属リングからなる鎖帷子です。これらのリングは、青銅またはを材料として作られ、通常は直径が5ミリメートルから7ミリメートル程度の比較的小さなサイズでした。これらのリングが、交互にリベット留めされるなどして水平方向や縦方向につながるように精巧に組まれることで、柔軟でありながら強度を持った布状の構造が作り出されます。この構造は、特に剣や槍などの鋭利な武器による斬撃や突き刺しに対して高い防御力を発揮しました。

一方で、ロリカ・ハマタは、棍棒など鈍器による強い打撃や衝撃を吸収する性能においては、板金鎧に比べて劣るという弱点も持ち合わせていました。しかし、この点を補って余りある柔軟性と頑丈さを兼ね備えていたことが、その普及の大きな要因となりました。鎖帷子であるため、着用者の身体の動きをあまり妨げず、行軍や戦闘中の機動性を確保しやすかったのです。また、製造や修理が比較的容易であったこと、そして適切な手入れさえ怠らなければ数十年もの長期間にわたって使用に耐えうるという耐久性の高さも、軍隊全体に広く支給される装備として非常に有利な特性でした。これらの実用的な利点が、ロリカ・ハマタが他の鎧が登場し、時代が変化してもなお、ローマ軍の標準装備として長きにわたり信頼され続けた最大の理由と言えるでしょう。

もう一度検索

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。