ロレンソ・ルイス

聖ロレンソ・ルイスの生涯：信仰を貫いたフィリピン初の聖人

ロレンソ・ルイス（Lorenzo Ruiz、漢名：李樂倫、1594年 11月28日 - 1637年 9月29日）は、カトリック教会で崇敬されるフィリピン出身の聖人です。中国系フィリピン人である彼は、17世紀の江戸幕府によるキリスト教徒への迫害の中で殉教しました。1987年に列聖され、マニラの聖ロレンソとして、特にフィリピンとフィリピンの人々の守護聖人となっています。また、彼は日本に最初に到着したフィリピン人としても知られています。

若年期と教育

ロレンソ・ルイスは、1594年 11月28日にマニラのビノンドで、中国から移住してきたカトリック教徒の父とフィリピン人の母の間に生まれました。父からは中国語を、母からはタガログ語を学び、幼い頃から多様な文化に触れて育ちました。

彼は、ビノンド教会で堂役を務め、ドミニコ会の修道士たちから教育を受けました。その優れた筆写能力からエスクリバーノ（書士）の称号を得て、教会の事務作業に貢献しました。また、ドミニコ会の聖ロザリオ会の会員としても活動し、信仰を深めました。その後、ロサリオ会員の女性と結婚し、2男1女をもうけ、信仰に根ざした平穏な家庭を築きました。

日本への逃亡と逮捕

1636年、ビノンド教会の事務員として働いていたロレンソは、不当にもスペイン人を殺害したという濡れ衣を着せられました。身の危険を感じた彼は、宣教師が乗船する日本行きの船に逃げ込むことを決意します。当時の船内は治外法権が適用され、逮捕を逃れることができると考えたからです。

ロレンソは、アントニオ・ゴンザレス、ギヨーム・クルーテ、ミゲル・デ・アオサラサの3人のドミニカ人司祭、日本人司祭のビセンテ塩塚、「京都のラサロ」と呼ばれる京都出身の信徒とともに、1636年6月10日に琉球に向けて出発しました。

殉教

日本に到着した一行は、江戸幕府によるキリスト教徒迫害の最中に捕らえられ、琉球（現在の沖縄県）で牢に入れられました。2年後、彼らは長崎に護送され、長崎奉行から棄教を迫る拷問を受けました。様々な拷問に耐えましたが、信仰を捨てることはありませんでした。

1637年9月27日、ロレンソらは西坂の丘に連れて行かれ、「穴吊るし」という拷問を受けました。この拷問は、体を逆さ吊りにし、片手だけを自由にすることで、棄教すれば解放されるという状況を作るものでした。ロレンソは激しい苦しみの中でも信仰を放棄せず、2日後の1637年 9月29日に失血と窒息により42歳で亡くなりました。彼の遺体は火葬され、遺灰は海に散骨されました。

マニラに送られた宣教師の記録によれば、ロレンソは死の際にラテン語で「私はカトリック教徒であり、喜びを持って死ぬ」という言葉を残したとされています。

列福と列聖

ロレンソの列福の理由は、スペインの歴史家フィデル・ビジャロエルによって執筆されました。ロレンソの殉教を示す重要な資料は、2人のイエズス会日本人元神父による証言で、ビジャロエルがローマのイエズス会総合資料館で発見しました。ドミニコ会会員であるロレンソの資料がイエズス会の資料館で発見されたことは、驚きでした。

ロレンソは、長崎で殉教した他のドミニコ会関係者とともに、「聖トマス西と15殉教者」として1981年にローマ教皇ヨハネ・パウロ2世によってマニラで列福されました。これは、バチカン以外で行われた初の列福式でした。1987年 10月18日には、バチカンで同教皇により「日本の16殉教者」として列聖され、フィリピン人初の聖人となりました。

列聖の根拠となった奇跡は、1983年10月に脳萎縮症（水頭症）を患っていた2歳の子供が、家族や支援者がロレンソに執り成しを求めて祈ったことで病気が治癒したというものでした。この奇跡的な回復が、ロレンソの聖人としての地位を確固たるものにしました。

参考文献

『長崎十六殉教者　神のしもべ達の横顔』ドミニコ会、1981年
『聖トマス西と15殉教者』　カトリック中央協議会、1987年