ロン・トーラナック

ロナルド・シドニー・トーラナック：F1とレーシングカー製造の巨匠

ロナルド・シドニー・トーラナック（1925年1月13日 - 2020年7月17日）は、イギリス生まれのオーストラリアの自動車技術者です。フォーミュラ1（F1）界において、ブラバムチームの共同設立者として、そして自ら設立したラルト・カーズでの成功によって、その名を不朽のものとしました。

若き日の情熱とブラバムとの出会い

トーラナックは少年時代をオーストラリアで過ごし、第二次世界大戦中はオーストラリア空軍に所属しました。戦後、レースの世界に足を踏み入れ、自作のレーシングカー「ラルト」でヒルクライムレースなどに参戦。その卓越した技術と才能は、後にF1世界チャンピオンとなるジャック・ブラバムの目に留まります。1951年頃の出会いをきっかけに、両者は深い信頼関係を築き、互いに刺激を与え合う関係を続けました。

ブラバム：F1における黄金時代

1961年、トーラナックとブラバムは共同で「モーター・レーシング・ディベロップメンツ社」、通称「ブラバム」を設立。F1およびF2への参戦を開始しました。1962年にデビューしたブラバム・BT3を皮切りに、トーラナックは数々の革新的なレーシングカーを設計。特にBT19とBT20は、ジャック・ブラバムとデニス・ハルムをドライバーとして、1966年と1967年に、ドライバーズチャンピオンシップとコンストラクターズチャンピオンシップの2年連続制覇に貢献しました。1リッター規定最後のF2選手権では、BT18を駆り12連勝という驚異的な記録も達成しています。

しかし1970年、ブラバムがドライバーと経営から引退。トーラナックはチームのオーナーとなりますが、そのモチベーションは低下し、1972年にチームをバーニー・エクレストンに売却しました。

ラルト：新たな成功の物語

ブラバム売却後、オーストラリアで一時隠居生活を送っていたトーラナックでしたが、1975年に「ラルト・カーズ」を設立し、レーシングカー製造の世界に復帰しました。ブラバム時代からの顧客からの依頼が殺到し、最初の車両であるラルト・RT1は、その高い性能と汎用性から、F2、F3、フォーミュラ・スーパーVeeなど、様々なカテゴリーで使用され、150台以上の販売数を記録する大ヒットとなりました。

ラルトはコンストラクター専業として、自らのチームを持たずにレーシングカーを製造、販売。ネルソン・ピケ、アイルトン・セナ、ミカ・ハッキネンといったF1界のスタードライバー達が、キャリア初期にラルト製のシャシーで経験を積みました。特に1980年代初頭には、ホンダエンジンを搭載したラルト・ホンダがヨーロッパF2選手権を席巻しました。

トーラナック自身もラルトの成功を認め、「会社としてはブラバムよりはるかに成功した」と述べています。1988年にラルトをマーチに売却した後もコンサルタントとしてモータースポーツに関わり続けました。

保守的な設計思想とメカニックへの配慮

トーラナックは、同時代の革新的設計者であるコーリン・チャップマンとは対照的に、保守的で堅実な設計思想を持つ技術者として知られていました。スペースフレーム構造へのこだわりや、メカニックが扱いやすいシンプルな設計を重視していたことが特徴です。また、エンジン性能だけでなく、車体全体のバランスやサスペンションの設計にも重点を置き、その卓越した技術は、多くのドライバーや関係者から高い評価を得ています。ホンダの久米是志氏もトーラナックからの指導が自身の設計に大きな影響を与えたと語っています。

寡黙な巨匠の生涯

トーラナックは寡黙で、表舞台に立つことを好まない人物でした。その静かな佇まいと高い技術力、そして現実主義的な姿勢は、彼の功績をより際立たせています。ブラバムの車両名「BT」は、ブラバムとトーラナックのイニシャルに由来し、ラルトという名前もロンと兄弟の名前から付けられています。彼はまた、ジャック・ブラバムの息子のデビッドの名付け親を務めるなど、モータースポーツ界に多大な貢献を残しました。2020年7月17日、95歳で亡くなりました。

まとめ

ロナルド・シドニー・トーラナックは、ブラバムとラルトを通して、F1の歴史に大きな足跡を残した伝説的な人物です。彼の保守的ながらも洗練された設計思想、メカニックへの配慮、そしてレースに対する情熱は、現代のモータースポーツにも大きな影響を与え続けています。彼の生涯と業績は、未来のエンジニアやレーシングカー開発者にとって、常に学び、敬意を払うべき貴重な遺産となるでしょう。

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