ローザ・ポンセル

ローザ・ポンセル：アメリカが生んだ伝説的ソプラノ

ローザ・ポンセル（Rosa Ponselle, 1897年1月22日 - 1981年5月25日）は、アメリカ合衆国出身のソプラノ歌手であり、20世紀前半にメトロポリタン歌劇場（メト）を中心に目覚ましい活躍を遂げました。彼女は、その卓越した歌唱力と表現力で、アメリカが生んだ最も偉大なソプラノの一人として広く認められています。

生い立ちとデビュー

ローザ・ポンセルは、イタリア系の芸能一家に生まれました。幼少の頃から母親の指導を受け、姉のカルメラとのコンビでヴォードヴィル劇場や映画館で歌い、レコード録音も経験しました。その才能は声楽教師に見出され、メトのオーディションを受けることになります。

第一次世界大戦の影響でヨーロッパ出身の歌手が不足していたという幸運もあり、1918年11月15日、ポンセルはヴェルディのオペラ『運命の力』のレオノーラ役でメトデビューを果たします。21歳という若さ、そして初舞台で難役レオノーラに挑むという異例ずくめの状況でしたが、彼女の歌声は聴衆と評論家を魅了し、一夜にしてスターダムにのし上がりました。共演者には、エンリコ・カルーソーやジュゼッペ・デ・ルーカといった大物歌手が名を連ねていました。

メトロポリタン歌劇場での活躍

ポンセルの歌声は「喉から黄金があふれ出てくるような」と形容され、特に深みのある中低音域はヴェルディ作品に最適でした。『エルナーニ』のエルヴィーラ役、『ドン・カルロ』のエリザベッタ役、『アイーダ』の題名役、『イル・トロヴァトーレ』のレオノーラ役、『ルイザ・ミラー』の題名役、『椿姫』のヴィオレッタ役など、数々の難役を見事に歌いこなし、高い評価を得ました。また、ジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』やマスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』など、幅広いレパートリーでその才能を発揮しました。

『ノルマ』とヨーロッパでの成功

ポンセルの名前を後世にまで知らしめた最大の当たり役は、ベッリーニのオペラ『ノルマ』の題名役でした。メトでは長らく上演されていなかったこの作品は、ポンセルの登場によって1927年に35年ぶりに復活し、大成功を収めました。指揮を務めたのは、後にマリア・カラスを指導したトゥリオ・セラフィンでした。セラフィンはポンセルを高く評価し、「人生における3つの奇跡」としてカルーソー、ルッフォと並びポンセルの名前を挙げています。

1929年にはロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場で『ノルマ』を演じ、1933年にはフィレンツェ五月音楽祭でスポンティーニの『ヴェスタの巫女』に出演するなど、ヨーロッパでも高い評価を得ました。当時としては珍しく、国際的な活躍を見せたアメリカ人オペラ歌手の一人でした。

引退とその後

ポンセルは、全盛期においても高音域に不安を抱えていたとされています。そのため、新たな役に取り組む際には、ハイCの音の数や長さを入念にチェックしていたそうです。また、プッチーニのオペラを一切歌わなかったことも特筆されます。

1935年、ポンセルはメトでビゼーの『カルメン』に挑戦しますが、評論家からの評価は芳しくありませんでした。このことが、高音への不安、劇場との意見の相違、結婚などが重なり、1937年に40歳という若さで突然オペラ界から引退しました。引退後は、ボルティモア近郊の大豪邸「ヴィラ・パーチェ」で悠々自適な生活を送り、1981年に84歳で生涯を閉じました。

ローザ・ポンセルの歌声は、今もなお多くの人々を魅了し続けています。彼女の残した録音は、20世紀を代表するソプラノ歌手の貴重な記録として、大切にされています。

もう一度検索