ローズ座

ロンドン・ローズ座：エリザベス朝演劇の中心地

ローズ座は、16世紀から17世紀にかけての隆盛を極めたエリザベス朝イングランド、ロンドンに存在した劇場です。1587年、起業家のフィリップ・ヘンズローと食料雑貨商人のジョン・チョムリーによって建設され、ロンドンにおける主要な劇場として、シェイクスピア作品の上演にも深く関わりました。

劇場の構造と特徴

ローズ座は木造建築で、茅葺屋根とラスアンドプラスターの外装が特徴でした。初期の建物は外径約22メートルの十四角形でしたが、ヘンズローが舞台を拡張したことで、形状は「膨らんだチューリップ」や「ゆがんだ卵型」と呼ばれる形状に変化しました。この拡張により、観客収容人数も500人以上に増加しました。

内部構造も独特で、現代の研究では、16世紀の標準的な長さ単位であるロッドを用いた幾何学的設計が用いられていたと推測されています。特に、2階にわたる大規模な舞台演出が可能だった点において、同時代の他の劇場とは一線を画していました。多くの役者を高所に配置する演出も可能であり、シェイクスピアの劇など、大がかりな演出を必要とする作品の上演に適していたと考えられています。

歴史：栄光と衰退

ローズ座は、テムズ川南岸のバンクサイド地区に建設されました。この地域は、賭博場や売春宿などが集まる歓楽街で、ロンドン市当局の規制を受けにくい場所でした。ヘンズローは、この地のアクセスの良さを見込み、劇場建設を決断したと考えられます。

ローズ座は当初、海軍大臣一座の公演に使用されました。特に、クリストファー・マーロウの作品との関連も深く、マーロウの作品が数多く上演されました。しかし、1590年代前半にはペストの流行により劇場が閉鎖される時期もありました。この間、他の劇団がローズ座を使用していました。ペストの終息後、海軍大臣一座が再びローズ座を拠点とし、最盛期には年間300回以上の公演が行われました。

しかし、ローズ座の成功は、バンクサイド地区への他の劇場建設を促しました。スワン座やグローブ座などの競合劇場の出現、そしてロンドン市当局による規制強化により、ローズ座は次第に衰退していきました。1605年には、土地の賃貸契約更新を巡る問題により、ヘンズローはローズ座を放棄。その後、ローズ座は取り壊されたと推測されています。

発掘と保存

1980年代後半、ローズ座の遺跡がビル建設によって破壊される危機に瀕しましたが、俳優たちの保存運動により、遺跡は地下に保存される形で建設計画が変更されました。発掘調査では、劇場の土台や、果実の種子やヘーゼルナッツの殻など、当時の生活状況を示す多くの遺物が発見されました。特に、ヘーゼルナッツの殻は、観客が持ち込んだ軽食の残骸として注目されましたが、後の研究では、近くの工場から持ち込まれた可能性も示唆されています。

現在、ローズ座の跡地は一般公開され、遺跡の保存と研究が続けられています。また、ローズ座を再現したレプリカも映画制作のために作られ、現在も保存されています。

ローズ座の遺産

ローズ座は、単なる劇場ではなく、エリザベス朝演劇の黄金時代を象徴する重要な場所でした。シェイクスピア作品の上演にも貢献し、その歴史的、文化的価値は高く評価されています。遺跡の発掘や保存活動は、歴史遺産保護の重要性を改めて認識させるものです。発掘された遺物や記録からは、当時の観客の生活や、劇場運営の様相などが垣間見られ、現代にいたるまでその歴史的影響を及ぼし続けています。ローズ座の物語は、単なる劇場史の一事例ではなく、歴史と文化の継承、そして都市開発と歴史保存のバランスという現代社会への重要な問いかけでもあります。

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