ローマ・エトルリア戦争

ローマ・エトルリア戦争：古代の覇権をかけた戦い

ローマ・エトルリア戦争は、古代ローマとエトルリアの都市国家群との間で繰り広げられた一連の戦いの総称です。この戦争は、ローマの歴史の初期段階において、その後の勢力拡大と文化形成に大きな影響を与えました。資料が少ない時代ではありますが、伝説的な建国から共和政初期にかけて、両者の間で数多くの戦いが展開されました。

エトルリアの概況

エトルリアは、ローマの北側に位置する地域に存在した文明です。エトルリア人は複数の都市国家を形成し、そのうち12の都市が「エトルリア同盟」を組織していました。しかし、この同盟は必ずしも強固なものではなく、エトルリア全体が連合してローマと戦うことはありませんでした。ローマは、これらの都市国家を個別に撃破し、最終的にエトルリアをローマ文化に組み込んでいきました。共和政末期には、エトルリア人はローマ市民権を得て、ローマ社会に同化していきました。

戦争の背景

ローマ建国以前の伝説

ローマの建国神話によれば、エトルリア人はルトゥリと同盟してラテン人とトロイア人を攻撃しました。この戦いはラテン人とトロイア人の勝利に終わり、ティベリス川がラティウムとエトルリアの国境となりました。この伝説は、ローマとエトルリアの間の古くからの対立を示唆しています。

ロムルスの時代：フィデナエとウェイイとの戦い

紀元前8世紀、初代ローマ王ロムルスの時代には、エトルリア都市フィデナエがローマを脅威とみなし、領土を荒らしました。ロムルスは伏兵を使いフィデナエを攻略し、またウェイイとも戦いました。ウェイイは一度は和平を結んだものの、後に再びローマと敵対することになります。紀元前7世紀には、ローマはフィデナエを植民都市として支配下に置きました。

トゥッルス・ホスティリウスの時代：アルバ・ロンガとの紛争

紀元前7世紀、第3代ローマ王トゥッルス・ホスティリウスの時代には、ローマの母市アルバ・ロンガが反旗を翻しましたが、ローマとの決闘に敗れ、従属都市となりました。しかし、アルバ・ロンガの僭主はこれに不満を持ち、フィデナエとウェイイを扇動してローマを攻撃させようとしました。結果、ローマ軍はウェイイとフィデナエを破り、アルバ・ロンガを破壊して市民をローマに移住させました。

セルウィウス・トゥッリウスの時代：ウェイイとエトルリアとの戦い

紀元前6世紀、第6代ローマ王セルウィウス・トゥッリウスはウェイイとエトルリアとの戦争に勝利し、その功績によって王位を強化しました。この戦争の詳細についてはあまり記録が残っていませんが、セルウィウスが複数回の凱旋式を行ったことが記録されています。

共和政初期の戦争

共和政開始とウェイイ、タルクィニイとの戦争

紀元前509年、ローマ王政が終わり共和政が始まると、追放された最後のローマ王タルクィニウス・スペルブスは、自身の出身地であるタルクィニイとウェイイの支援を得て、ローマに侵攻しました。しかし、ローマ軍はこれを破り、エトルリア軍は武器を捨てて撤退しました。

クルシウムとの戦い：プルセナスの包囲戦

紀元前508年、タルクィニウスはクルシウム王ラルス・プルセナスの支援を求めました。プルセナスはローマを包囲しましたが、ローマの英雄たちの活躍によって撃退されました。この戦いでは、ホラティウス・コクレスが橋を守り抜いた逸話や、ガイウス・ムキウスがプルセナス暗殺を試みた逸話が有名です。最終的に、プルセナスはローマとの和平を受け入れました。

ローマ・サビニ戦争との関連

紀元前505年から紀元前504年にかけてのローマ・サビニ戦争には、エトルリアが関与していた可能性が指摘されています。ローマ軍はサビニとウェイイの両方に対して勝利を収めた記録があります。

ファビウス氏族とウェイイの戦争

紀元前483年から紀元前476年にかけて、ウェイイはエトルリア都市と同盟し、ローマに再び戦争を仕掛けました。この戦いではファビウス氏族が活躍しましたが、最終的にはローマが勝利しました。この戦争中、ファビウス一族がほぼ全滅する事件も発生しています。

ウェイイ・サビニ同盟

紀元前475年、ウェイイはサビニ族と同盟してローマと戦いましたが、ローマ軍はこれに勝利しました。紀元前474年には、ウェイイはローマと40年間の停戦条約を結びました。

エトルリア「王」ラルス・トルミウスとの戦い

紀元前438年、ウェイイの王ラルス・トルミウスはフィデナエと同盟し、ローマと戦いました。この戦いでローマは勝利し、トルミウスを討ち取りました。

フィデナエの破壊とウェイイの陥落

紀元前426年、フィデナエはローマに反乱を起こしましたが、最終的に破壊されました。紀元前396年には、ウェイイがローマによって陥落し、ローマの一都市として取り込まれました。

ストリウム、タルクィニイ、ネペテの戦い

紀元前389年から紀元前386年にかけて、ストリウム、タルクィニイ、ネペテを巡る戦いが繰り広げられました。これらの戦いでは、カミルスがローマ軍を率いて活躍し、エトルリア勢力を駆逐しました。

タルクィニイ、ファレリイ、カエレとの戦争

紀元前359年から紀元前351年にかけて、タルクィニイ、ファレリイ、カエレとローマの間で戦争が起こりました。ローマはこれらの都市との戦いに勝利し、エトルリアの都市はローマの支配下に入りました。

ウァディモ湖の戦い

2度にわたるウァディモ湖の戦いは、ローマ・エトルリア戦争の最終局面を飾る戦いでした。ローマ軍が勝利を収め、エトルリアはローマに完全に組み込まれることとなりました。

戦争の結末と影響

ローマ・エトルリア戦争の結果、ローマは地中海世界における強国としての地位を確立しました。エトルリアはローマ文化に同化され、その独自の文化は歴史の中に埋もれていきました。しかし、エトルリア語はその後も一定期間使われ続け、その影響はローマ文化にも残りました。

歴史研究における論争

古代の歴史家はエトルリア同盟を軍事同盟として記述していますが、現代の歴史家はこれを宗教的な組織であるとみています。また、ローマ・エトルリア戦争の記録は誇張されている部分が多く、特にカミルスの活躍は創作である可能性が指摘されています。

まとめ

ローマ・エトルリア戦争は、ローマの勢力拡大と文化形成に大きな影響を与えた重要な戦いです。この戦争を通じて、ローマはエトルリアを吸収し、地中海世界を支配する大国への道を歩み始めました。この戦いの歴史は、ローマの初期の歴史を理解する上で欠かせないものです。

このテキストは、古代ローマとエトルリア間の戦争について、史実と伝説を交えながら解説しています。歴史の複雑さと、その解釈の多様性を感じていただけるでしょう。

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