ローマ劫掠

ローマ劫掠：ルネサンスの終焉を告げた悲劇

1527年5月、ローマは神聖ローマ皇帝カール5世の軍勢によって徹底的に破壊されるという悲劇に見舞われました。この事件は「ローマ劫掠」（Sacco di Roma）として知られ、ルネサンス文化の中心地であったローマを壊滅させ、その後の歴史に大きな影響を与えました。

イタリア戦争と教皇の揺れる立場

当時、イタリア半島はフランスと神聖ローマ帝国の間で繰り広げられるイタリア戦争の舞台となっていました。1515年にはフランス王フランソワ1世がミラノを占領しましたが、1521年にはカール5世が教皇レオ10世と結び、フランス軍をミラノから駆逐しました。しかし、教皇レオ10世の従弟であるクレメンス7世は、フランスと皇帝の間で立場を揺らし、そのことがローマ劫掠の遠因となります。

1526年、パヴィアの戦いで捕虜となっていたフランソワ1世が釈放されると、カール5世に対抗するためコニャック同盟を結成。教皇クレメンス7世もこれに加わり、カール5世と同盟していたフェラーラ公アルフォンソ1世・デステを破門し、ローマに幽閉しました。これに対し、カール5世はローマへ軍勢を派遣。スペイン兵、イタリア兵、そしてカトリックを憎むルター派のドイツ傭兵からなる皇帝軍がローマに進軍することになります。長期間の行軍による給料未払いは、兵士たちの不満を増大させ、飢餓に苦しむ者も多くいました。

ローマの悲劇：破壊と略奪

1527年5月6日、皇帝軍と教皇軍が衝突。クレメンス7世はサンタンジェロ城に逃げ込みましたが、教皇軍は敗北。皇帝軍の指揮官であったブルボン公シャルル3世が戦死したものの、彼の死は逆に兵士たちの士気を高め、統制を失った軍勢はローマで破壊と略奪を繰り広げました。市民はなすすべもなく、6月には教皇が降伏。皇帝軍がローマから撤退したのは翌年でした。

当時ローマに集まっていた多くの文化人や芸術家は殺害されたり、他の都市へと逃れたりしました。文化財は略奪され、教会は破壊され、ルネサンス文化の中心であったローマは壊滅的な打撃を受け、停滞の時代を迎えることになりました。この事件は、1450年代から続いていた盛期ルネサンスの終焉を告げる出来事となりました。

劫掠後の影響

カール5世自身はカトリック教徒であり、これほどの略奪を意図していたわけではありませんでしたが、結果として事態は皇帝側に有利に働きました。1529年、教皇と皇帝はバルセロナ条約を結んで和解し、イタリアはカール5世の支配下に入ることになりました。1530年にはボローニャで教皇クレメンス7世の下、カール5世の神聖ローマ皇帝戴冠式が行われました。

一方、フィレンツェ共和国を治めていたクレメンス7世の庶子アレッサンドロは、この混乱に乗じた市民によって追放されましたが、1530年にカール5世の支援で復帰。1532年には公爵位を授与され、フィレンツェ公国を成立させました。

ローマ劫掠は、ルネサンス期のイタリアにおける政治的混乱と、宗教対立、傭兵の存在といった複数の要因が複雑に絡み合って発生した悲劇でした。この事件は、単なる都市の略奪に留まらず、ルネサンス文化の終焉と、その後のヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。

参考資料

アンドレ・シャステル『ローマ劫掠 一五二七年、聖都の悲劇』 越川倫明他4名訳、筑摩書房、2006年
『グイッチァルディーニ イタリア史 第9巻』 川本英明訳 太陽出版、2007年
Buonaparte, Jacopo (1830). Sac de Rome, écrit en 1527 par Jacques Bonaparte, témion oculaire: traduction de l'italien par N. L. B. (Napoléon-Louis Bonaparte). Florence: Imprimerie granducale.
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Carlo Milanesi, ed. (1867). Il Sacco di Roma del MDXXVII: narrazione di contemporanei (in Italian). Firenze: G. Barbèra.
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Lenzi, Maria Ludovica (1978). Il sacco di Roma del 1527. Firenze: La nuova Italia.
Chamberlin, E. R. (1979). The Sack of Rome. New York: Dorset.
Pitts, Vincent Joseph (1993). The man who sacked Rome: Charles de Bourbon, constable of France (1490-1527). American university studies / 9, Series 9, History, Vol. 142. New York: P. Lang. ISBN 978-0-8204-2456-9.
Gouwens, Kenneth (1998). Remembering the Renaissance: Humanist Narratives of the Sack of Rome. Leiden-New York: BRILL. ISBN 90-04-10969-2.
Gouwens, Kenneth; Reiss, Sheryl E. (2005). The Pontificate of Clement VII: History, Politics, Culture ((collected papers) ed.). Aldershot (UK); Burlington (Vt.): Ashgate. ISBN 978-0-7546-0680-2.

関連項目

イタリア戦争
スイス傭兵
ベンヴェヌート・チェッリーニ

外部リンク

『ローマ劫掠』 - コトバンク
『ローマの略奪』 - コトバンク

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