ローマ帝国時代の服飾

古代ローマ帝国時代の服飾

古代ローマ帝国時代の服飾は、紀元前753年から395年までの広大な領域で着用された衣服を指します。この時代の服装は、社会階層や性別によって大きく異なり、単なる防寒具としての役割を超え、個人の地位や権力を示す重要な手段でした。

特徴

初期の王政ローマ時代では、ウールが主要な素材であり、男女ともにトゥニカというシンプルなチュニックとトガという一枚布を着用していました。しかし、時代が進むにつれてトガは複雑化し、女性はギリシア風の衣装を取り入れるようになりました。

ローマの服飾における最大の特徴は、身分標識としての役割が非常に重要であったことです。公的な場ではトガの着方や色に厳格な規定があり、日常生活ではトゥニカと様々な外套が用いられました。3世紀頃からはダルマチア地方の民族衣装がキリスト教徒の間で広まり、キリスト教の国教化に伴い、公服として定着しました。

髪型についても、男性は短く刈り込み、女性は長く伸ばしてギリシア風に結い上げていました。髪の脱色も盛んに行われ、金髪や赤色の髪が人気を集めました。特にゲルマン人の金髪を使用した鬘は高価で、ローマの富裕層に愛用されていました。

靴は、普段はサンダルが用いられましたが、兵士や農作業時には深靴やズック靴が使用されました。正装用の靴はカルケウスと呼ばれ、市民のみが着用を許されました。軍用の長靴であるカンパグスは、皇帝の履物としても用いられました。

装飾品は、現代で見られるほぼ全ての種類が作られており、紀元前215年には女性向けの奢侈禁止令が出るほどでした。婚約指輪もこの時代に生まれましたが、当時は鉄製でした。

男子の衣装

一般庶民

一般の男性は、正装として無染色で濃いベージュ色のトガを腿丈のトゥニカの上に着用しました。しかし、トガの着用は煩雑であったため、紀元前1世紀頃からはトゥニカの重ね着やギリシア風の外套が日常着として用いられました。トゥニカはウール製で、五分袖から七分袖程度の袖があり、膝下丈でした。

寒さ対策として、パルリウムという外套や、サグム、ラケルナ、ペヌラといった様々なマントも用いられました。染料として藍や茜が使われ、トゥニカは様々な色で彩られていました。帝政初期には、ゲルマン人の民族衣装であるウールのズボン、ブラカエが取り入れられましたが、当初は野蛮な服装とみなされ、こっそりと防寒用として使用されました。一般的には腰巻を下着としていました。

2世紀初め頃からはダルマティカという長袖のチュニックが普及し、3世紀にはキリスト教徒のユニフォームのようになり、4世紀にはトガに代わって第一礼装となりました。

上流階級

上流階級の男性も、トゥニカの上に無染色のトガを着用しましたが、官職にある者や10代の少年は赤い縁取りのついたトガを着用しました。トガは非常に大きく、着付けには奴隷の手を借りる必要がありました。晩餐会用のトゥニカは刺繍などの装飾が施され、豪華で色彩豊かでした。普段着は無染色のウールが多かったものの、胡粉を塗ったり、日に晒すことでより美しい白色を目指しました。

靴は、カルケウスというモカシンが外出用としてよく使われ、家の中ではコルク底のサンダルに履き替えていました。

ローマ軍人は、軍神マルスを象徴する茜染めのマントを着用し、このマントは軍団の制服のようになっていました。将校の衣服は綾織で、紫の糸が織り込まれたものもありました。

ローマの男性は、髭剃りや脱毛を欠かさず、脱毛ワックスも使用されていました。

女子の衣装

一般庶民

女性は、既婚女性は踵丈のチュニックを日常着とし、未婚女性はやや短い丈のものも着用しました。下着として腰布と胸帯（ストロピウム）、胸下から下腹を覆う帯（ゾーナ）を着用し、袖のない膝丈のチュニックの上にカスチュラというアンダースカートを着用しました。キトン型の衣装はストラと呼ばれていました。

外套としてパルラという布を被り、これは頭に被ることもありました。靴は白い華奢なサンダルが一般的でした。ストラは「廉恥のストラ」と呼ばれ、姦通者や売春婦は着用を禁じられ、トガを着用させられました。売春婦は透けるトゥニカ一枚を着て、宝石のついた飾りリボンで客を誘い、髪をオレンジや青色に染めました。

貧しい女性は、2世紀初め頃からダルマティカを着用しました。キリスト教徒の女性はヴェールで髪を覆うことを好みました。

上流階級

上流階級の女性は、絹や綿の美しい衣装を身につけ、刺繍などの装飾を施していました。絹は珍しく高価であり、エジプトからの染料で美しく染められ、ローマの富裕層を魅了しました。しかし、絹の貿易はパルティアに富を流出させる要因にもなりました。

ローマ女性は、紡ぎの仕事は自ら行いましたが、織物は奴隷に任せきりでした。肌を白く保つために努力し、ロバの乳で顔を洗い、高価な鉛白粉を使用しました。髪を脱色するために、鳩の糞や、ブナの木の灰、ミョウバンなどを用いていました。髪を巻いてボリュームを出すことも好み、ヘアスタイルは非常に多様でした。結婚式では、キンブルムという帯を締め、サフラン色のチュニックとサンダルを身につけ、深紅のヴェールと花冠を着用しました。

参考文献

丹野郁 編『西洋服飾史 増訂版』東京堂出版
千村典生『ファッションの歴史』鎌倉書房
深井晃子監修『カラー版世界服飾史』美術出版社
リチャード・コーソン 著『メークアップの歴史　西洋化粧文化の流れ』ポーラ文化研究所
青木英夫『下着の流行史』雄山閣
山根章弘『羊毛文化物語』講談社

関連項目

ビザンツの服飾
古代ギリシアの服飾
トガ
ダルマティカ

外部リンク

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