ローラ・B08/60

ローラ・B08/60：ル・マンを舞台に活躍した名車

ローラ・B08/60は、イギリスのローラ・カーズ社が2006年後半に発表したル・マン・プロトタイプ（LMP1）マシンです。1992年のT92/10以来となるクローズドコックピットのスポーツプロトタイプとして、2010年からのル・マン24時間レースのレギュレーション変更を見据えて開発されました。

開発：空力性能と多様なエンジン対応

B08/60は、ACO（フランス西部自動車クラブ）が2010年から導入するクローズドコックピット規定への対応と、ライバルであるプジョー908 HDi FAPなどのマシンに対抗できる高い空力性能を目標に開発されました。

前モデルであるB06/10をベースにしながらも、ノーズやサイドポッドのデザインは改良され、冷却効率と空力性能の向上を図っています。特にノーズは、ローラが2007年に開発した設計をベースに、わずかに大型化されています。

空力設計はフィル・ティラーが担当し、エンジン用のルーフマウントエアインテークを備えた特徴的なコックピットデザインも彼の貢献によるものです。コックピット側面は階段状にデザインされ、空力性能の最適化が図られています。

開発においては、ANSYSとAMDとのパートナーシップも大きな役割を果たしました。ANSYSはエンジニアリングソフトウェア、AMDはハードウェアを提供することで、風洞試験による綿密な空力解析を可能にしました。2007年初頭からスケールモデルを用いた風洞試験が実施され、12月には最初の車両が完成しています。

また、B08/60の開発と並行して、LMP2クラス向けのB08/80も開発されました。このマシンはB08/60と多くの部品を共有しながらも、より小排気量のエンジンやLMP2レギュレーションに適合した設計となっています。

レース戦績：多様なチームとエンジンで活躍

2007年11月、アストンマーティン・レーシングがB08/60の初号機を購入し、アストンマーティン・DBR9に搭載されている6.0L V12エンジンを搭載してル・マン・シリーズ（LMS）に参戦を開始しました。

アストンマーティンはプロドライブとチャロウズ・レーシングシステムと提携し、新しいチームを結成。しかし、B08/60はアストンV12エンジンを前提に設計されていなかったため、標準のローラ製ギアボックスをエクストラック製のよりコンパクトな6速ギアボックスに交換する必要がありました。

2008年のLMSでは、チャロウズ・レーシングはガソリンエンジン搭載車の中で最速でしたが、アウディやプジョーのディーゼルエンジン搭載車には敵いませんでした。ル・マン24時間レースでは総合9位、シルバーストンでは総合2位という好成績を残しました。

B08/60はアストンマーティン以外にも複数のチームに販売され、様々なエンジンが搭載されました。ローラとプロドライブは、B08/60をベースとしたローラ-アストンマーティン・B09/60|ローラ-アストンマーティン・B09_60も共同開発しています。

その後も、スピーディー・レーシングチーム・セバー（2009年LMS）、レベリオン・レーシング（2010年以降）、ドレイソン・レーシング（2010年ALMS）など、多くのチームがB08/60とその改良型を使用し、アメリカン・ル・マン・シリーズ（ALMS）やFIA世界耐久選手権（WEC）といった様々なレースシリーズで活躍しました。レベリオン・レーシングは、トヨタ製のエンジンを搭載するなど、エンジンを変更しながら改良を重ね、2011年にはLMSのLMP1クラスでチームチャンピオンを獲得しています。

B08/60は、様々なチーム、様々なエンジンと組み合わせることで、長きに渡り世界中のサーキットで活躍した、高い適応性を持つレーシングカーだったと言えるでしょう。改良型のB10/60、B11/66、B12/60も、その血統を受け継いでいます。

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