ロールス・ロイス ニーン

ニーンエンジンの概要と影響

ニーン（Nene）は、1940年代にイギリスのロールス・ロイス社が開発した、代表的な遠心圧縮式ターボジェットエンジンです。社内コードはRB.41で、これはロールス・ロイスが開発したエンジンの3番目に当たります。先行のウェランドやダーウェントの技術を活用し、設計開始からわずか5ヶ月で、1944年8月27日に最初の点火を迎えました。ニーンはその当時、世界でもトップクラスの推力と高い信頼性を誇るエンジンとして注目されましたが、第二次世界大戦の終了時期には完成には至りませんでした。

このエンジンの開発において、ロールス・ロイスは型式名の変更も行いました。ウェランドやダーウェントの型式名にはローバー由来の「B」を使用していましたが、爆撃機（Bomber）の「B」と紛らわしいため、以降はロールス・ロイスの頭文字「R」を加えた「RB.」という命名法が採用されました。この命名法は現在でもロールス・ロイスのターボジェットエンジンに受け継がれています。

ニーンは、フランク・ホイットルの基本的な設計を引き継ぎつつ、側面吸入方式を採用しました。この設計では、単板圧縮機の両面にインペラとガイドベーンが配置される形態をとっています。しかし、初期の試作色を排除し、特許料の支払いを回避するために、航空機用レシプロエンジンで過給機を専門とするスタンリー・フッカー率いるチームによって、一から設計し直されました。

ホイットルが重視していた蒸発管式気化器や反転型燃焼器などは削除される一方で、レシプロエンジンの過給機で培った実績を活かし、可変式ガイドベーンが採用されることで、エンジンの効率や安定性が大幅に向上しました。さらに、ゼネラル・エレクトリックからの技術提供を受けることで、開発は迅速に進行しました。

ニーンは、グロスター ミーティアの搭載用に縮小版のダーウェント 5が開発され、同機以外にも多くの航空機で使用されました。アフターバーナーが装備されたニーンの改良型はテイと名付けられ、これによりニーンシリーズは航空機用ターボジェットエンジンの発展を促したのです。また、ニーンで得た技術は、後に開発される軸流式ターボジェットエンジン、特にエイヴォンにも活用されました。

適用機種と国際的影響

ニーンは、イギリスの航空機、ホーカー シーホークやスーパーマリン アタッカーに採用されただけでなく、アメリカのテイラー・タービン社でもJ42としてライセンス生産されました。プラット・アンド・ホイットニーによる改良型であるJ48が登場し、米海軍のグラマンF9Fシリーズに搭載されました。さらにフランス空軍やオーストラリア、カナダなどの航空機にもライセンス生産が行われ、これを通じてターボジェットの基本技術が各国に広がりました。

戦後、イギリスのアトリー政権によってソ連にニーン35基とダーウェント Mk.V 25基が供与されたことで、このエンジンはデッドコピーされ、ニーンはRD-45として、その後のVK-1型エンジンに発展しました。このVK-1は、MiG-15やMiG-17の各型機に搭載され、冷戦時代の西側に対する重要な脅威となりました。さらに、国内向けに中国ではVK-1Fのコピー品である渦噴5型（WP-5）が製造され、中国版MiG-17で使用されたため、ロールス・ロイス社はライセンス料の支払い請求を行ったものの、無視されたままとなりました。

また、BOACの双発中型レシプロ旅客機ヴィッカース VC.1 ヴァイキングは、ニーンに換装されて世界初の純ジェット観客機となり、1948年の初飛行で重要な役割を果たしました。これにより、デ・ハビランド DH.106 コメットの実用化に向けた貴重なデータも収集されたのです。ニーンはその多様な適用と国際的な影響を通じて、ターボジェットエンジンの分野において不動の地位を確立しました。

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