ロールス・ロイス RB211

ロールス・ロイス RB211：航空史に名を刻んだ3軸式ターボファンエンジンの物語

ロールス・ロイス RB211は、航空業界の歴史に大きな足跡を残した高バイパス比のターボファンエンジンです。37,400～60,600重量ポンド（166～270kN）の推力を誇るRB211は、1972年にロッキードL-1011トライスターへの搭載からその運用が始まりました。当初はトライスター専売エンジンでしたが、その優れた性能と信頼性から、後にボーイング747、757、767といった名機や、ロシアのツポレフTu-204にも搭載され、航空業界に大きな影響を与えました。さらに、発電用途への展開も図られ、幅広い分野で活躍しました。

開発の背景と困難

1960年代後半、アメリカン航空やイースタン航空などの航空会社は、低コストで長距離飛行可能な新型旅客機を求めていました。その需要に応えるべく、ロッキード社とダグラス社はそれぞれL-1011トライスターとDC-10の開発に着手しました。両機とも、新たな高性能エンジンが必要とされていました。

ロールス・ロイスは、この市場機会を捉え、RB211の開発に乗り出しました。RB211は、当時としては革新的な3軸式ターボファンエンジンでした。低圧、中圧、高圧の3つのタービンをそれぞれ異なる回転数で駆動させることで、高効率、コンパクト化、高剛性を実現しました。しかし、この複雑な設計は、開発期間の長期化とコスト高騰という問題を生むことになります。

特に、炭素繊維複合材製のファンブレード「Hyfil」の開発は難航しました。当初は軽量化と高性能化が期待されていましたが、バードストライク試験に合格することができず、開発は大幅に遅延。チタン製ファンブレードへの切り替えを余儀なくされたことも、コスト増に拍車をかけました。

国有化と再生

開発費の膨張は、ロールス・ロイスを深刻な経営危機に陥れました。1971年、同社はついに破産宣告を受け、イギリス政府による国有化という事態に至ります。

RB211の開発は、イギリスの国家戦略上も極めて重要なものでした。政府は、開発を継続するため、そしてロールス・ロイスという国家的重要企業の存続のために、国有化という決断を下したのです。

その後、スタンリー・フッカー率いる技術チームがRB211-22の問題点を解決し、1972年にエンジンは最終認証を取得。トライスターも同年、運航を開始しました。フッカーの尽力によって、ロールス・ロイスは危機を乗り越え、RB211は世界中の航空会社から注目されるエンジンへと成長を遂げます。

RB211の派生型と成功

RB211は、L-1011トライスターへの搭載にとどまらず、多くの機種に搭載されるようになりました。RB211-524シリーズはボーイング747-200などに、RB211-535シリーズはボーイング757やロシアのツポレフTu-204などに採用されました。これらの成功によって、ロールス・ロイスは国際的な主要エンジンメーカーとしての地位を確立します。

RB211-524シリーズは、ボーイング747-200の航続距離を伸ばすのに貢献。高性能と信頼性で世界中の航空会社に認められました。特にRB211-524Hは、767への搭載も実現しています。

RB211-535シリーズは、ボーイング757向けに開発されました。軽量化と低騒音化が図られたRB211-535E4は、アメリカン航空などから多数の発注を受け、757の販売に大きく貢献しました。さらに、ロシアのツポレフTu-204への搭載は、東西冷戦後の航空機産業における画期的な出来事となりました。

産業用への応用

RB211は、航空機用エンジンとしての成功にとどまらず、発電用途にも応用されました。RB211-24、RB211-Gzeroなど、産業用タービンとしても高い評価を獲得。石油・ガス関連施設などで幅広く使用されています。

まとめ

ロールス・ロイス RB211は、その複雑な設計と開発の困難さにもかかわらず、世界的な成功を収めたエンジンです。その過程で、ロールス・ロイスは国有化という苦境を経験しましたが、そこから見事に復活を果たしました。RB211の開発と成功は、航空機エンジン技術の進歩と、国家産業の再建という大きな意義を持つ出来事だったと言えるでしょう。RB211は、その後継機であるトレントエンジンシリーズへとその技術を受け継ぎ、ロールス・ロイスの地位を不動のものとしたのです。

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